ストレスは体にどう出るか
顎、胃腸、胸、肩、眠り、肌。しんどい一年が身体症状に変わるまでの仕組みと、「ただのストレス」という言い方の何が間違っているか、そして医療との境目。
ウェルビーイングの科学
朝起きたときに痛む顎。日曜の夕方について意見を持っている胃。三月からずっと耳の近くまで上がったままの肩。しんどい週の頭に来る胸の詰まり、締め切りとともに戻ってくる湿疹。
誰かがそのうちたぶんただのストレスだよと言います。その文で害をなしているのは「ただの」のほうです。それは「本当は何も起きていない、あなたが作り出している」という意味に着地します。本当は仕組みの名前として着地するべきです。 そこで記述されているのは、どの結び目にも名前のある生理の連鎖で、その結び目は実在する組織に実在することをしているからです。
このページの立場。症状は想像ではありません。だからこそ「ストレスです」は、ほかの可能性を確かめたあとに辿り着く結論であって、確かめないで済ませるための言い方ではありません。
仕組みのほう
ロバート・サポルスキーの枠組みがいちばん明快です。ストレス反応は、短くて物理的な危機のために作られた緊急系です。糖を動員し、血圧を上げ、注意を鋭くし、待てるものを全部後回しにする —— 消化、修復、生殖、免疫機能の一部。数分の話であれば見事な仕組みです。一年度ぶん走らせるようには、まったく作られていません。
仕事の大半を二つの経路がやります。速いほうは交感神経系で、数秒でアドレナリンが出て、心臓と手を渡してきます。遅いほうが HPA軸 —— 視床下部から下垂体、そして副腎 —— で、数分から数時間かけてコルチゾールを出し、信号が続くかぎり出し続けます。クロウソスのストレス系の総説が、その信号が止まらないときに何が起きるかの標準的な記述です。
ブルース・マキューアンは、積み上がった費用をアロスタティック負荷と名づけました。繰り返しの、あるいは持続的な調整によって安定を保つことの代価です。一つの系が壊れるのではなく、多くの系が、少しだけ設定値からずれた場所に、ずらしていること自体が問題になるほど長く保持される。 しんどい一年の生理学的な中身がこれです。
仕組みから言って起きうること:
- 筋肉。 顎、首、肩、腰の持続的な低レベルの緊張。緊張型頭痛。夜の歯ぎしり。
- 胃腸。 消化は最初に後回しにされるものの一つです。運動の変化、腹痛、そしてストレス下での過敏性腸症候群の症状の悪化はよく記録されています。
- 睡眠。 コルチゾールには日内リズムがあり、夜は低いはずのものです。慢性の活性化はそこに干渉します。疲れているのに眠れないという状態の中身は、かなりの部分がこれでできています。
- 免疫。 短いストレスは免疫機能を動員し、長引くストレスはその一部を抑制します。傷の治りが遅くなること、軽い感染を繰り返すことが、確からしい所見です。
- 循環。 長期にわたる血圧の上昇と、それが伴うリスク。
- 皮膚。 湿疹や乾癬の悪化は、ストレスとの関連がもっとも一貫して報告されているものの一つです。
症状は、計器の表示ではありません
後半があり、これを落とすとこのページは役に立たなくなります。
症状は、体から意識へ計器の値のように送られてくるのではありません。内受容感覚に書いたとおり、脳は体の状態を予測しながら補正しています。ファン・デン・ベルフらは、身体の信号から経験される症状へ渡るその一歩を推論の飛躍と呼びました。脳が、期待と注意と文脈を使って、その信号が何を意味するかを決めているということです。
これは、組織だけの説明では出てこないことを説明します。注意を向けると症状が強くなるのはなぜか。あらかじめ警告された症状のほうが現れやすいのはなぜか。症状が「症状についての心配」と束になるのはなぜか。そして、測定された生理が同じ二人が、まったく違う量の苦しさを報告するのはなぜか。
注意書きが両方向に一つずつつきます。飛躍があることは、症状が偽物だという意味ではありません。 連鎖のどの部分が作ったものであれ、痛みは痛みです。そして飛躍は、調べるのをやめてよい免許でもありません。 「脳が予測しているのだろう」は症状についての仮説であって、症状の診断ではありません。
「自律神経失調症」と「不定愁訴」という言い方
日本語でこの話を検索すると、かなり早い段階でこの二語に当たります。英語版には対応する節がありません。この二語をどう受け取るかで、そのあとの行動が変わります。
不定愁訴は、はっきりした一つの病名に収まらない、複数の身体の訴えを指す言い方です。これは診断名ではなく、訴えの形の呼び名です。だから「不定愁訴ですね」と言われたことは、何かが特定されたという意味ではありません。特定されていない、という意味です。そこは会話の終わりではなく、途中です。
自律神経失調症のほうは、もっとややこしい位置にあります。日本語圏では病名として広く流通していて、説明として使われ、本人も家族もそれで納得します。ところが国際的な診断分類に、この名前の疾患項目はありません。 日本の臨床で慣用的に使われてきた説明的な呼び名で、指しているのは「自律神経系の働きのバランスが崩れているらしい、複数の身体症状がある状態」です。
だからこの語は、二つの相反する使われ方をします。よい使われ方は、「体の症状は実在していて、その多くはストレス反応の系を通っている」という、このページ前半とほぼ同じことを一語で言う使い方です。悪い使われ方は、検査をこれ以上しないための蓋としての使い方です。甲状腺の病気、貧血、糖尿病、睡眠時無呼吸、更年期の内分泌の変化 —— どれも「自律神経の乱れ」と呼ばれた症状の下から出てくることがあり、どれも普通の検査で見つかります。
だから、この語を渡されたときに確認すべきことは一つです。「これは、ほかを調べた結果ですか。それとも、これから調べますか」。 前者なら意味のある要約です。後者なら、まだ何も言われていません。
そして職場の側にも入口があります。ストレスチェックは、一定規模以上の事業場に労働安全衛生法上の義務として置かれている仕組みで、結果は本人に返ります。産業医のいる職場では、そこがいちばん近く、いちばん敷居の低い医療の入口になることがよくあります。休職の話をしに行く場所だと思われがちですが、「最近こういう体の症状が続いている」を相談する場所でもあります。
どこからが医療の領分か
ここは曖昧にしません。こういうページは、誰かに相談していいものかどうかを迷っている人に読まれるからです。
まず診てもらってください。 胸の痛み、息苦しさ、動悸、説明のつかない体重減少、続く腹痛、便通の変化、これまでにない強い頭痛、しびれや脱力、そして眠っているところを起こしてくる症状は、医療で評価するものです。誰も診ていない症状に対するストレスという説明は、白衣を着た当て推量です。
日本での道順を具体的に書きます。 体の症状が前に出ているなら、まず内科(症状に応じて消化器内科・循環器内科・耳鼻科・皮膚科など)。そこで器質的な異常が見つからず、しかも症状が続き、経過がストレスと連動しているなら、次が心療内科です。心療内科は「体の症状を心身両面から診る内科」で、気分や不安そのものが前面にあるなら精神科になります。この二つは看板が並んでいることが多く、違いが分かりにくいのですが、どちらに行っても、必要なら横に回してもらえます。 入口を間違えることを心配して行かないのが、いちばん損です。
検査が正常だったと言われることは、情報であって、追い返しではありません。 ヘニングセンらの身体的苦痛についての仕事は、いちばんよい結果が出るのは両方を同時に真面目に扱ったとき —— きちんと調べ、そのうえで苦痛のほうを実在するものとして扱い、陰性の結果だけを持たせて帰さない —— であることをはっきり書いています。正常な画像は「何も起きていない」ではありません。「起きていることは、この検査が探すものではない」です。
そしてこのページは、何の診断でもありません。 会話のための背景で、何がいつから続いているかを言えると、その会話はよくなります。
これを知ったあと、何ができるか
その型を、人格についてのデータではなく、生活についてのデータとして扱う。 体はしばしばこの系で最初の正直な報告者です —— 全員が「大丈夫」と言うことにした仕事、状況、関係を登録します。予定表を持っている症状に対して役に立つ問いは「自分のどこがおかしいのか」ではなく、「これは何に連動しているのか」です。
自分の署名を知る。 人はかなり一貫しています。ある人はいつも胃、別の人はいつも顎、また別の人はいつも眠り。自分のを知っていると、事態が高くつく前に一、二週間の猶予が手に入る。それが、知っていることの実用的な価値のほぼ全部です。 ストレス反応診断は負荷がかかったとき系がどちらへ寄るかを読み、闘争・逃走・凍りつき・迎合がその四つの設定をその場の形で記述します。
考えのほうだけでなく、生理のほうを中断する。 速い経路が身体的である以上、確実な介入も身体的です。長い呼気は副交感神経の側を直接引きますし、運動は体が準備していた反応を完了させますし、睡眠はストレス反応が後回しにした修復が行われる場所です —— 睡眠負債がその輪のもう半分になります。
そして人間関係の側に連動しているなら、そちらを見る。 症状に予定表があって、その予定表が特定の誰かとのやりとりと一致しているなら、それは体調の問題の顔をした関係の問題です。言わなかったことが夜にどう戻ってくるかは喧嘩のあと眠れないのはなぜかに、どこに線を引くかは人間関係の線引きに書きました。
ストレスであることをやめて消耗になる地点に気をつける。 症状が出来事に連動しなくなり、休みで回復しなくなり、平らさが悪い週ではなく既定になったなら、それは燃え尽き症候群と情緒的消耗感の領域で、放っておいて収まるものではありません。
出典
- · McEwen, B. S. (1998). Protective and damaging effects of stress mediators. New England Journal of Medicine.
- · Chrousos, G. P. (2009). Stress and disorders of the stress system. Nature Reviews Endocrinology.
- · Sapolsky, R. M. (2004). Why Zebras Don't Get Ulcers (3rd edition). Henry Holt.
- · Van den Bergh, O., Witthöft, M., Petersen, S., Brown, R. J. (2017). Symptoms and the body: taking the inferential leap. Neuroscience & Biobehavioral Reviews.
- · Henningsen, P., Zipfel, S., Sattel, H., Creed, F. (2018). Management of functional somatic syndromes and bodily distress. Psychotherapy and Psychosomatics.