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疲れているのに眠れない(過覚醒)

体は終わっているのに頭が終わらない夜。睡眠研究が過覚醒と呼ぶもの、片づかなかった会話が寝室までついてくる理由。

ウェルビーイングの科学

疲れているのに眠れないとは、体のほうは明らかにその日を終えているのに、頭のほうが終わっていない状態のことです。眠気は足りています —— 一時間前はソファで舟をこいでいた —— のに、電気を消した瞬間に何かが起動する。不安とも少し違います。点検です。

睡眠研究にはもっと味気ない名前があります。過覚醒(かかくせい)です。リーマンらのグループと、ボネとアランドが2010年に整理した知見はこうです。慢性的な不眠のある人は、眠気が足りないのではない。測定できる形で、一日じゅう活性が高い。 心拍も、コルチゾールも、速い脳波も、昼のあいだから高い。体が夜にスイッチを切り損ねているのではなく、そもそも一度も切れていないのです。

午前二時に何が起きているか

ハーヴェイが2002年に出した不眠の認知モデルは、自分を外から観察できたら誰でも見覚えがあるはずの順序を書いています。

  1. その日の残りが届く。 会話、気がかり、言わなかったこと。枕は頭にとってその日最初の静けさなので、頭はそこで仕事を始めます。
  2. 監視が始まる。 まだ眠れていない。何分経った。いま何時。確かめる行為そのものが覚醒なので、確かめている当のものが遠のきます。
  3. 計算が始まる。 いま寝れば五時間。この計算が安心をもたらしたことは一度もなく、しかも完全に目が覚めた状態で行われます。
  4. 安全行動。 スマホ。別の部屋。翌朝の一時間の寝坊 —— これが時計をずらして次の夜を悪くします。

この輪には二つ、あとの話に効く特徴があります。主題があること(手順1のあれです)。そして引き金があること —— 夜が悪いのは、昼が悪かったからです。

片づかなかった会話が寝室までついてくる

主題は何かと聞くと、答えはかなりの割合で人です。もっと正確には、終わっていないやりとりです。避けて通った口論、書いて送らなかったメッセージ、一晩じゅう続いて説明されなかった沈黙。

これが確実に効くのには理由があります。避けた対立には行き場がありません。部屋で言われなかったことは蒸発せず、最初の静けさを待っていて、そこで頭は避けた審理を一人で開きます。検察側と弁護側を一人で務め、長時間にわたり、判決は出ません。 睡眠の点数が描いているのは睡眠の問題ではなく、深夜に営業時間を持ってしまった会話のほうです。

この傾向にも研究上の名前があります。ドレイクらは睡眠反応性 —— 同じストレスがその人の眠りをどれだけ乱すか —— に個人差があり、それが安定した特性で、つらい時期のあとに慢性不眠に進む人を予測することを示しました。眠りが昼をよく読んでしまう人がいるということです。その人たちにとっては、夜八時の喧嘩と午前二時の不眠は二つの問題ではありません。

そこは対立スタイル診断の領域です —— 言うのか、回り込むのか、固まるのか。睡眠の質テストと並べると、回避が高くて夜が悪いという組み合わせがパターンになります。結果ページではこれを「喧嘩のあとの眠り」と呼んでいます。言わなかったことがなぜ高くつくのかは対立と修復のほうが長い説明です。固まる・回り込むが体の側からどう見えるかは闘争・逃走・凍りつき・迎合に書きました。

「睡眠負債」という言い方とどこがずれるか

日本語でこの話をすると、ほぼ必ず睡眠負債が先に出てきます。2017年に一気に広まった語で、足りない分が借金のように積み上がる、という説明でした。

睡眠負債は「量」の枠組みで、過覚醒は量の問題ではありません。 借金の比喩が言うのは、返せば済むということです。ところが過覚醒のある人は、時間ならベッドに十分います。足りないのは機会ではなく、活性が落ちないことのほうです。この枠を持ったまま対策すると、行き着く先は「早く布団に入る」で、それは寝床にいる時間だけを延ばして眠れない時間を増やします。 不眠の認知行動療法が最初にやることの一つが、むしろ寝床にいる時間を削ることなのは、ここに理由があります。

もう一つ、日本語で手前にある自己流の手段が二つあります。寝酒と、薬局で買える睡眠改善薬(多くは抗ヒスタミン薬で、一時的な不眠を想定した製品です)。どちらも寝つきの数十分には効いた感じがしますが、狙っているのは寝つきだけで、夜の後半と翌日は別の勘定になります。

そして翌朝、休めていないことを気合いや自己管理の問題として読む言い方が控えています。休めていないのは根性の量ではありません。

研究がはっきり支持していること

この輪は一つの系を両端から見たものです。 夜が回復にならないので昼はアドレナリンで走り、そのアドレナリンが夜に切れないので頭が眠る代わりに走る。罠は片端だけを扱うことです。睡眠衛生 —— 暗い部屋、画面を見ない、カフェインを控える —— は、頭が大きな音を立てているあいだはほとんど効きません。逆に、疲れ切った頭は考えて静まりもしません。リストを全部やってまだ眠れない人は、たいていもうこの段落に辿り着いています。

過覚醒には治療法があり、それはこのページの仕事ではありません。 慢性的な不眠に対する臨床の答えは CBT-I(不眠症の認知行動療法)で、上に書いた監視と計算と安全行動をそのまま扱います。長期の成績では薬物療法を上回るという結果が繰り返し出ていて、日本睡眠学会も実践マニュアルを公開しています。ただし日本では実施できる施設が多くありません。 入口は睡眠外来、心療内科、精神科のどれでもよく、勤務先に産業医がいればそこが最も近いこともあります。数週間にわたって夜が悪いなら道はそちらで、このページは地図であって治療ではありません。

傾向のほうは測れます。 睡眠反応性は特性で、自分がどのあたりにいるかを知る価値はあります。夕方を守ることが贅沢なのか必要なのかが、それで変わるからです。

自分の版を読む

三つのテストが、同じ輪を三方向から読みます。睡眠の質テストが読むのは夜そのもの —— 寝つき、途切れ方、朝の状態。考えすぎ傾向テストが読むのは頭の音量で、それが枕の上でいちばん大きくなる理由は反芻に書きました。対立スタイル診断が読むのは、輪の主題がしなかった会話かどうかです。三つ揃うと、症状ではなくパターンに名前がつきます。

そのうえで二つ。どちらも治療ではありません。

  • 考える時刻を前に倒す。 枕まで待つことになる主題を、午後の決まった時間に、紙の上で。頭は、予定が入っている話題を手放します。
  • 会話は明るいうちに終える。 主題が人なら、いちばん短い本当の一文を、明日、本人に言うほうが、夜のあいだに何をするより効きます。

効き始めた最初の合図は、朝まで眠れることではありません。点検が始まって、リストに新しい項目が何も無い夜です。

昼のあいだに引き受けたものが多すぎて夜に回っているなら、それは燃え尽き症候群の側から見たほうが早いこともあります。

出典

  • · Riemann, D., Spiegelhalder, K., Feige, B., et al. (2010). The hyperarousal model of insomnia: a review of the concept and its evidence. Sleep Medicine Reviews.
  • · Bonnet, M. H., Arand, D. L. (2010). Hyperarousal and insomnia: state of the science. Sleep Medicine Reviews.
  • · Harvey, A. G. (2002). A cognitive model of insomnia. Behaviour Research and Therapy.
  • · Drake, C. L., Pillai, V., Roth, T. (2014). Stress and sleep reactivity: a prospective investigation of the stress-diathesis model of insomnia. Sleep.
  • · Kalmbach, D. A., Cuamatzi-Castelan, A. S., Tonnu, C. V., et al. (2018). Hyperarousal and sleep reactivity in insomnia: current insights. Nature and Science of Sleep.

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