内受容感覚(自分の体を読む感覚)
空腹、心拍、緊張、感情になる前の何か。内側に向いた感覚のこと。正確さそのものより、正確さと自信のずれのほうが問題になる理由。
ウェルビーイングの科学
外に向いた感覚が五つあって、内に向いた感覚が一つあります。内受容感覚がその内向きのほうです。心拍、呼吸、内臓、体温、筋肉の張り —— 体の状態について脳に届き続ける情報の流れで、その大半は言葉になりません。
いちばん語られない感覚であり、おそらくいちばん結果を左右する感覚でもあります。感情が部分的にこれでできているからです。胸が締めつけられる感じは、不安の比喩ではありません。脳が「不安」と名づける経験を組み立てるときに使っている材料の一つです。
ここからこのページの主題が出てきます。人は、目標は体をもっとうまく読めるようになることだと考えます。研究が指しているのは、もっと具体的で、もっと使える場所です。困りごとを予測するのは、読み取りの下手さではありません。どれだけうまく読めているかと、どれだけうまく読めていると本人が思っているかの、そのずれのほうです。
「身体感覚」と呼ばれている三つの別物
サラ・ガーフィンクルらは2015年、この三つは別物で、別々に測れて、互いにゆるくしか相関しない、と言い張ることでこの分野を扱いやすくしました。
- 内受容の正確性。 客観的な課題での成績。伝統的には、脈を取らずに自分の心拍を数える課題で、ルドルフ・シャンドリーが1981年に導入しました。
- 内受容の感受性。 どれだけ敏感だと自分で思っているか。質問紙が測っているのはこちらです。自己報告であり、正確性とはよくてもゆるくしか一致しません。
- 内受容の気づき。 自信が正確性に追随しているかどうか —— 正解した試行でより確信が強いかどうか。体についてのメタ認知で、いちばん興味深い振る舞いをするのがこれです。
重要なのは、一つめが低くて二つめが高い人がありうるということです。自分の体にとても敏感だと感じていて、実際には読み違えている。そのずれが不安として現れます。信号が増幅されると同時に、誤って解釈されている。カルサらの2018年のロードマップは、その型が不安、パニック、摂食障害、身体症状にわたってどれだけ一貫して現れるかを整理しています。
鏡像もあります。正確性は高いのにそこへ注意を向けない人。そして内向きの回線にほとんど接続がなく、感情が説明のつかない身体の出来事として、あるいは何も無いものとして到着する人。
体の報告は、読み取りではなく予測です
リサ・フェルドマン・バレットとシモンズの予測的な説明が現在の主流で、これは「体の声を聞く」という言い方の意味を変えます。
脳は体の信号を受け取ってから何かを感じるのではありません。体の状態がどうであるはずかを絶えず予測していて、届いた信号は主にその予測の補正に使われます。意識に上がるのは、おおむね補正された予測のほうです。
ここから二つのことが出てきて、どちらも見覚えがあるはずです。
期待が感覚を作ります。 心臓が速くなるはずだと思っていれば、計測器が正当化するより早く、強く、速さを感じます。これは思い込みではなく、系がそう作られているという話です。そしてこれがパニックの渦の原動力でもあります。予測が感覚を生み、感覚が予測を裏づける。
文脈がラベルを供給します。 同じ生理的な高まりが、脳がそれを何についてのものと決めたかによって、恐怖にも興奮にも怒りにもなります。闘争・逃走・凍りつき・迎合で同じ身体の仕組みが四つのまったく違う経験を作ると書いたのはこのためで、「これは不安なのか高揚なのか」が言葉の問題ではなく本物の問いである理由もここにあります。
測り方についての正直な注記
先に書いておきます。内受容感覚の高い低いを点数で返してくる診断は、信用しないでください。 この文献の大半を担ってきた心拍計数課題が、あまりよい状態にないからです。
ザマリオラらは2018年、この課題の得点が過少に数えることに大きく左右されること —— 少なく報告した人ほど正確と判定されること —— と、得点が心拍数そのものや、自分の心拍数についての思い込みと、純粋な正確性の指標なら相関しないはずの形で相関することを示しました。反論もあり議論は続いていますが、公平にまとめれば、あの課題から出た一つの数字を、あなたについての安定した特性として扱うべきではない、ということになります。
ですから三分法のほうは真面目に受け取り、具体的な正確性の主張のほうは慎重に扱う。それがこの分野自身のいる場所とだいたい同じで、まともなテストが内受容感覚の点数を渡してこない理由でもあります。質問紙が読めるのは感受性の次元 —— 身体信号にどれだけ注意を向け、どれだけ信じているか —— で、それはHSP(とても敏感な人)診断が一方の端で、ストレス反応診断がもう一方の端で拾っているものと同じです。
日本語には、体で言う語彙が多い
ここが日本語で読むときにいちばん面白いところで、しかも結論は直感と逆になります。
日本語は感情を体の部位で言います。腹が立つ。腹を決める。腹を割って話す。胸が痛む。胸が締めつけられる。肩の荷が下りる。肩身が狭い。手に汗握る。腑に落ちる。虫が好かない。気が重い。頭にくる。 数えていくと切りがなく、しかもどれも比喩として意識されないほど日常に溶けています。
これを「だから日本語話者は体に敏感だ」と読みたくなります。その推論は、このページが書いてきたことの、ちょうど間違えやすいほうです。
ガーフィンクルの三分法に当てはめると、豊かなのは感受性の側 —— 体の信号に注意を向け、それを言葉にし、信頼する習慣 —— です。正確性が高いことの証拠には、まったくなりません。 そして一つめが低く二つめが高い組み合わせこそ、不安と結びつくと報告されている型でした。つまり日本語の身体語彙は、内受容感覚の実例であると同時に、そのずれが起きやすい足場でもある。「腹が立つ」と言える人が、その高まりが怒りなのか空腹なのか寝不足なのかを言い分けられるとは限りません。
もう一つ、日本語で使える利点のほうも書いておきます。部位の語彙は、粒度の入口として優秀です。 感情を細かく言い分けられる人ほど調節がうまくいく、というのは繰り返し報告されている関係で、日本語話者はそのための語をすでに持っています。「なんとなくしんどい」を「胸が重い」と「腹の底が冷たい」と「肩が上がったまま」に割るだけで、同じ日が別の日に見えることがあります。 足りないのは語彙ではなく、使う頻度のほうであることが多い。
そして受診の側。日本には「はっきりした病名はつかないが、体のあちこちが不調」という訴えを指す不定愁訴という言い方があり、そういう訴えを受ける科として心療内科が制度として存在します。これは全部の国にある構えではありません。利点は、体から入ってよいと最初から決まっていること。 不利点は、「気のせい」と「自律神経の問題」のあいだで説明が止まりやすいことです。そのあたりの線の引き方はストレスは体にどう出るかのほうに書きました。
これを知ったあと、何ができるか
全部感じていて、しかも読み違えている場合。 打つ手は体へもっと注意を向けることではありません。たいてい輪が強まります。二つめの情報源を足すことです —— 状況に名前をつける、文脈を確かめる、外から見ている人なら何が起きていると言うかを考える。信号とフィードバックを対にする訓練のほうが、音量を上げるだけの訓練よりうまくいきます。
危機になるまで何も感じない場合。 足りていないのはたいてい体のほうではなく、語彙のほうです。実用的な入口は粒度です。疲れた、空腹、平ら、寂しい —— これを一日に何度か、言葉で区別する。信号が言葉への経路を持てないときに身体の経路を取る、という話はストレスは体にどう出るかに書きました。
体がいちばん先に知る場合。 ある種の人にとって、状況についての最初の確かな情報は姿勢です —— 考えより肩、意見より胃。これは迷信ではなくデータとして扱う価値があります。ただし一つだけ条件をつけて。体が報告しているのは高まりであって、真実ではありません。 何かが起きているとは言えます。それが何かは言えず、なぜかについては、人が思うよりずっと頻繁に、自信満々で間違えます。 社会的な電池は、費用については正確で原因については不正確な身体信号の、よい例です。相手といるときの張りつめ方が先に教えてくれるものについては、人間関係の線引きのほうが長い説明で、言葉より先に体が「これは無理だ」と言っていたという経験は、そこで扱っている材料そのものです。
そして範囲を、はっきり書いておきます。胸の痛み、息苦しさ、動悸、めまいは、自己理解を深めて解く謎ではありません。 まず医療で調べる症状です。「たぶん内受容感覚の問題だろう」は、医師がほかの可能性を除外したあとにだけ使える結論です。日本では、まず内科で。そこで異常が見つからず、しかも症状が続くなら、心療内科が次の入口になります。検査が正常だったことは、追い返されたという意味ではありません。 その検査が探しているものではなかった、という意味です。
出典
- · Schandry, R. (1981). Heart beat perception and emotional experience. Psychophysiology.
- · Garfinkel, S. N., Seth, A. K., Barrett, A. B., Suzuki, K., Critchley, H. D. (2015). Knowing your own heart: distinguishing interoceptive accuracy from interoceptive awareness. Biological Psychology.
- · Khalsa, S. S., Adolphs, R., Cameron, O. G., et al. (2018). Interoception and mental health: a roadmap. Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging.
- · Barrett, L. F., Simmons, W. K. (2015). Interoceptive predictions in the brain. Nature Reviews Neuroscience.
- · Zamariola, G., Maurage, P., Luminet, O., Corneille, O. (2018). Interoceptive accuracy scores from the heartbeat counting task are problematic: evidence from simple bivariate correlations. Biological Psychology.