目標設定
具体的で困難な目標は「ベストを尽くせ」に勝ちます —— 語り直しのときに落とされる四つの条件つきで。ロックとレイサムが確立したこと、目標が逆効果になる場面、そして学習目標という選択肢。
ウェルビーイングの科学
目標設定理論とは、具体的で困難な目標のほうが漠然とした目標より高い成果を生む、という所見と、その所見が成り立つ条件についての研究のことです。
中身は1968年のエドウィン・ロックと、その後ゲイリー・レイサムと重ねた数百の研究から来ています。具体的で困難な目標は、曖昧な目標に勝ちます。 曖昧な目標の中で最も一般的なものは「ベストを尽くせ」で、これが効かないのは縁が無いからです。どんな結果も事後に「自分のベストだった」と再構成できるので、狙う先も、届かない先もありません。
ここまでは堅い。そして経営資料に移るときにほぼ必ず生き延びないのが、ロックとレイサムが三十年かけて「効かない場合」も同じくらい丁寧に記述していたという事実です。その条件は脚注ではありません。効果の符号を決めています。
四つの条件
ロックとレイサムの2002年の総括が調整変数を挙げています。四つ全部が成り立つ必要があります。
受容。 本人が実際にその目標を受け入れていなければなりません。内心では夢物語だと思われている割り当て目標は、何も生まないか、無いより悪い。 受容が上がるのは、目標の重要性が説明されたときと、届くと本人が信じているときです。だから「挑戦的」と「無茶」を隔てる線は、引き伸ばされる当人が引くことになっています。
フィードバック。 進み具合の情報が無い目標は、願望です。現実の職場でいちばん破られている条件はこれです。 月々の読み取りが見えない年間の数字は、機能としては目標が無いのと同じです。調整する方法がないからです。
課題の複雑さ。 効果は、単純でよく分かっている作業でいちばん強く、複雑で新しい作業ではいちばん弱く、ときに逆転します。 やり方がまだ分かっていない作業に困難な成果目標を乗せると、探索が要る問題に圧力が足されます。圧力は、視野を広げるべきときに注意を狭めます。
能力と資源。 まだできない作業に具体的で困難な目標を置いても、能力は召喚されません。失敗の連続が生産され、それは確実に自己効力感を削ります。
合わせて読むと、流行らないことを一つ言っています。目標設定は実行の技術であって、探索の技術ではありません。 方法が既に分かっている仕事には優れています。方法そのものが問題である仕事には、道具違いです。
学習目標と成果目標
複雑さの問題に対してレイサム自身が出した処方は、どんな頭字語より価値があります。
成果目標は結末を名指します —— 転換率を15%上げる、三月までに出す、45分を切る。学習目標は発見の量を名指します —— 離脱の原因を五つ特定して検証する、他部署のやり方を三つ調べて二つ試す。
セイツとレイサムの2005年の整理は、切れ目について明快です。やり方を既に知っている作業では成果目標が勝ちます。新規で複雑な作業では学習目標が勝ちます —— ときにかなりの差で。初期に有用な行動が探索であるのに、成果目標は探索を抑え、すでに数字を動かすと分かっている手のほうへ寄せるからです。
これが文献の中で最も実用的な区別で、目標が行動ではなく不安を生んでいるときに手を伸ばすべきものです。その不安はたいてい、まだ方法を持っていない問題に成果目標が置かれていることを意味します。学習目標に変換すると、効いている部分である具体性は保たれたまま、困難さが自分で動かせる側に移ります。グロースマインドセット診断が読んでいるのは、この変換を楽にするか難しくするかを決めている信念のほうです。
日本語では、目標は最初から評価票の上にある
ここから英語版に対応する節がありません。目標という語が置かれている場所が違うからです。
日本語で「目標設定」を調べる人の多くが実際に探しているのは、動機づけの理論ではありません。目標管理シートの書き方です。人事評価の期首に出す、あの用紙。パーソル総合研究所が2021年に行った実態調査でも、MBOをはじめとする目標管理の仕組みは広く使われていて、同時にそれが評価と処遇の入力になっています。同じ調査で、従業員のおよそ四割が人事評価制度に不満を持ち、課題として最も多く挙がったのは「目標を定量化しにくい」と「目標の難易度が人や部署でばらつく」でした。
この二つの不満は、感想ではありません。前の節で挙げた四条件のうち三つが壊れている、という報告です。
受容が反転します。 ロックとレイサムの理論では、困難さが効果を生みます。目標が評価の入力でもある場合、困難な目標を掲げた人は、達成率で不利になります。 すると合理的な行動は、達成できる水準に目標を置くことになる。効果を生む変数そのものに、下向きの誘因が掛かっています。これは誰かの不誠実ではなく、設計から出てくる帰結です。
フィードバックが半期に一度になります。 期首に立てて、期末に振り返る。理論が要求しているのは「二週間後に自分がどこにいるか分かること」で、六か月後に分かることは、条件を満たしていません。 前の節の言い方をそのまま使うなら、それは目標ではなく願望です。
定量化しにくい仕事に、数値が乗ります。 六割が挙げた不満がこれです。そして数字が置けないものに数字を置くと、次の節の副作用がそのまま出ます —— 測られたものに注意が行き、測られなかったものから注意が去る。
最後に、処方の側にも正直な但し書きが要ります。前の節で薦めた学習目標は、評価票にそのまま書けないことが多い。 「原因を五つ特定して二つ検証する」は、達成/未達の二値に落としにくく、点数化しにくい。英語版の最も有用な処方が、この制度の上ではそのままでは通りません。
通し方は一つだけあります。評価票に書く目標と、自分が実際に使う目標を、分けて持つこと。 票の側は制度の要求どおりに書く。手元の側には、同じ仕事についての学習目標を置いて、二週間単位で読み取れる指標を自分で決める。 書類を二つ持つのは無駄に見えますが、票の一行で両方をやろうとすると、どちらの仕事もしません。
目標が害をなすとき
2009年、オルドニェス、シュワイツァー、ガリンスキー、ベイザーマンが意図的に挑発的な論文を出しました —— Goals gone wild。目標設定は過剰に処方されていて、その副作用は偶発的ではなく系統的である、という主張です。ロックとレイサムが同じ号で応答していて、このやり取りは知っておく価値があります。名指された失敗の型は、たいていの人が実際に目撃したことのあるものだからです。
視野狭窄。 目標は測られたものへ注意を向けます。つまり、測られていないものから注意が離れます。 これは目標設定の誤用ではなく、機構が働いているところです。目標に入っていなかった安全、品質、関係が、費用の落ちる場所になります。
時間軸の短縮。 四半期の数字は、十八か月先に効く判断を、自分に対してすら擁護しにくくします。
倫理の侵食。 具体的で困難な目標 —— とくに報酬つきで、あと少しで届く水準のもの —— が虚偽報告を増やす、という実験結果が複数あります。数字のわずかに手前にいる人は切り上げ、組織の中ではそれが積み上がります。
間違った方向のリスク。 目標に遅れているとき、人は追いつくためにより大きな賭けに出ます。これはキャリアにおけるサンクコストの項が書いている型に直結します。
圧力としての目標。 目標が自分の値打ちについての言明として取り込まれている場合、達成できないことは情報ではなく判決になり、そこから先は完璧主義の項の機械が引き継ぎます。目標が誰かから掛けられていると感じていて、それを一度も声に出して確かめていないなら、人間関係の線引きのほうが先に読む価値があります。
自分の目標をどう扱うか
四つ出ます。どれも頭字語ではありません。
「知らないこと」に合わせて目標の種類を選ぶ。 方法を知っているなら成果を置く。知らないなら探索を置く。これを逆にするのが、自分で自分に負わせる目標の怪我として最も多いものです。
目標より先にフィードバックを決める。 二週間後に自分がどこにいるかをどうやって知るかが言えないなら、それは願望です。読み取りを直すほうが、数字をいじるより価値が高い。
一つの時間軸に、一つの目標。 同時に複数の困難な目標は努力を掛け算しません。互いに取引されて、いちばん測りやすいものが勝ちます —— どれがいちばん大事かとは無関係に。
何を無視することに同意したのかを書く。 視野狭窄は技術の費用であって故障ではありません。この四半期に何を後回しにするのか、そしてどこまで行ったら行き過ぎなのかを名指しておくのが、いちばん安く手に入る保護で、目標と「後悔する約束」を分けているのもそこです。
そして、個人的な目標が実は別の何かの代理 —— 立場、証明、自分が十分かどうかの判決 —— であるとき、具体性をいくら上げても効きません。 そのための項は地位不安と仕事とアイデンティティで、キャリア価値観診断はその目標が自分のものかどうかを、もっと速く読みます。
出典
- · Locke, E. A. (1968). Toward a theory of task motivation and incentives. Organizational Behavior and Human Performance.
- · Locke, E. A., Latham, G. P. (1990). A Theory of Goal Setting and Task Performance. Prentice Hall.
- · Locke, E. A., Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: a 35-year odyssey. American Psychologist.
- · Seijts, G. H., Latham, G. P. (2005). Learning versus performance goals: when should each be used? Academy of Management Executive.
- · Ordóñez, L. D., Schweitzer, M. E., Galinsky, A. D., Bazerman, M. H. (2009). Goals gone wild: the systematic side effects of overprescribing goal setting. Academy of Management Perspectives.
- · パーソル総合研究所 (2021). 人事評価制度と目標管理の実態調査.