不安のスクリーニング(チェックリストで分かること)
不安のチェックリストは何のために作られた道具なのか。同じ点数が集団によって別の意味になる理由と、日本で「受診する」までのあいだに実際にあるもの。
ウェルビーイングの科学
スクリーニング検査とは、集団の中から「もう一度よく見るべき人」を選び出すための道具で、不安のチェックリストはほぼ全部がこれです。点数を出したあと、どのページにも同じ一文が付いています ——「これは診断ではありません」。この文は本当です。ただしなぜ本当なのかを書いているページはほとんど無いので、免責文にしか見えず、点数のほうだけが残ります。
理由は、免責文よりずっと面白い。スクリーニング検査は、特定の方向に外れるように設計されています。 該当する人をほぼ取りこぼさないことを優先し、その代わりに該当しない人もかなり拾ってしまうことを承知で作られている。作った人たちには二段目があったからです。二段目の無い場所でそれを受けると、二部構成の道具の前半だけを手に持って、判決として読むことになります。
GAD-7は何のために作られたのか
ネット上の不安チェックのほとんどは、GAD-7という尺度の子孫です。スピッツァーらが2006年に発表したもので、作られた場所が重要です —— プライマリ・ケア(日本でいえば、かかりつけの診察室)。医師には十分程度しかなく、待合室には人がいて、全員に不安の面接をする時間は無い。この尺度の仕事は仕分けで、「この人はもう少し見よう」と言うことでした。そしてその「もう少し」は、同じ建物の中で、その週のうちに、人間によって行われる前提でした。
中身は7項目、各0〜3点、直近2週間について。それだけです。どれくらい前から続いているのか、出来事に見合っているのか、何についての不安なのか、そのせいで何をやめたのか、いま人生の側で何かが燃えていないか —— どれも聞いていません。 臨床家はそれを後から全部聞きます。ウェブページは聞きませんし、聞けません。
どの検査も見せてくれない算数
プラマーらは12の検証標本、のべ5,223人を統合して、GAD-7のよく使われる区切り点での性能を報告しました。カットオフ8点で、感度0.83、特異度0.84。 7項目の質問票としては立派な数字で、引用されるのもここまでです。
ここから先、集団を後ろに置くという一手が、たいてい抜け落ちます。
全般不安症の12か月有病率をおよそ3%として、1,000人を考えます。30人が該当し、検査はそのうち約25人を拾う。該当しない970人のうち、検査は約155人を拾ってしまう。つまり陽性およそ180人のうち、当たっているのは約25人 —— 7人に1人です。
問いを変えるだけで、算数は足元から動きます。全般不安症ではなく何らかの不安症を的にすると有病率は約18%になり、同じ検査・同じカットオフで、当たりは半分を少し超えます。同じ7問、同じ点数、同じ人。それでも陽性の意味は4倍変わった。意味は最初から点数の中には無く、点数が引かれてきた集団の側にあったからです。
ここで、日本語で読む人のために一つ足しておきます。この3%と18%は米国の全国調査(NCS-R)の値で、日本の標本ではありません。 日本で行われた地域住民調査の値は、同種の欧米の調査より総じて低く出ることが知られています。日本側の数字を断定して書くことはしませんが、向きだけははっきりしています —— 有病率が低いほうへ動けば、陽性の的中率はさらに下がる。 つまりこの節の結論は、日本語に持ってくると弱まるのではなく、強まります。
結果に名指しされた気がしたことがあるなら、ここは少し座って読む価値があります。「不安の検査」を自分で探しに行った人だけが集まった標本での高得点は、読んでいる最中に感じるほど強い証拠ではありません。
そして、正直に逆向きの補正を一つ。同じ算数のおかげで、低有病率では陰性のほうに情報があります。 該当しない970人のうち800人以上が陰性になり、30人の該当者のうち見落とされるのは5人ほど。低い点数は何かの証明ではありませんが、高い点数よりは重い。連続しているものに線を一本引く、という一般形の問題がここにあります。
日本で「受診する」までのあいだにあるもの
英語版の記事はここで「臨床家に相談を」と書いて閉じられます。日本語でそれだけ書くと、いちばん時間のかかる部分を飛ばすことになります。
看板が二つあります。 診断と治療ができるのは精神科ですが、街で見かける看板の多くは「心療内科」です。本来の心療内科は、身体の症状に心理社会的な要因が関わる状態を診る内科系の領域で、精神科とは別の専門です。実際には両方を掲げる診療所が多く、受診する側にとっては入りやすいほうの名前として機能してきました。名前が敷居を下げたこと自体は、悪いことではありません。ただし「心療内科」の看板が出ているからといって、成人の不安症の評価と治療を扱っているとは限らない —— 予約の電話で先に確かめたほうが早い、というのはそういう意味です。初診まで数週間から数か月待つことも珍しくありません。待ち時間の長さは、相談に値しないことの証拠ではありません。
多くの人は、そもそも精神科の側に着きません。 クレンケらは、プライマリ・ケアの患者のおよそ5人に1人に不安症が見つかり、しかもかなりの割合が見落とされていたことを報告しています。動悸、胃、めまい、頭痛、眠れない。身体のほうが大きな声で報告するので、最初に行くのは内科になる。検査で異常が出ず、「ストレスでしょう」で終わって何年か経つ —— この経路は日本でとくに厚い。石川らによる世界精神保健日本調査は、基準を満たす人のうち相当な割合が何の治療も受けていないという、日本での未受診の大きさを繰り返し示しています(その割合の数字は調査年と対象によって動くので、ここでは書きません)。
そして語彙の問題。「甘え」です。土居健郎が1971年に書いたときの甘えは、人に頼れることについての概念語でした。日常語としての「それは甘えだ」はそこから離れて、弱さ・自己管理の失敗という評価語になっています。「気の持ちよう」「みんな大変」「根性」も同じ隊列です。この語彙の下では、受診は症状への対処ではなく人格の敗北として読まれます。 そして自分に対していちばん強くこれを使うのは、たいてい本人です。
一つだけ、言い方を渡しておきます。受診は「弱さの証明」ではなく「二段目」です。 前半だけ持っている道具の、後半を取りに行く動作にすぎません。
点数が本当に役に立つ場面
二つあり、どちらも本物です。
同じ人の中での変化。 臨床でGAD-7が実際にいちばん使われているのはこれです。治療前の点数と、6週間後の点数。自分自身と比べる限り、この尺度は動きを見せるだけの安定性があります。そして人が本当に知りたいのは動きのほうです。集団の基準に対する一つの数字より、一か月離れた自分の二つの数字のほうが、はるかに多くを語ります。
部分に名前をつけること。 よくできたスクリーニングは、止まらない心配、身体の緊張、落ち着かなさ、いらだち、回避を別々のものとして聞きます。「最近不安で」という一語より精度が高い。身体症状がいちばん大きい声なのか、回避がいちばん損害を出しているのか。それが分かると、次にやることが変わります。
不安チェックが返しているのもその読み方で、直近2週間について14問、心配のループ・身体・避けたくなる力の三方向を別々に見ています。一つの「自分がそうである数字」ではなく、誰かに説明できる三つの読みとして持ち帰るほうが、この道具の使い方としては正しい。
不安と、不安症のあいだ
不安は故障ではありません。予報の仕組みです。声が大きいのは、片方向に外れる代償がもう片方向よりずっと高くついた時代が長かったからです。試験の前、検査結果を待つ間、こじれそうな話し合いの前、払っていない請求書。そこで不安になるのは正しい反応で、無いほうが所見です。
線は強さのところには引かれていません。持続・釣り合い・損害のところに引かれていて、臨床の定義もそう書いてあります —— ない日よりある日が多い状態が6か月以上、実際の見込みや影響に対して不釣り合い、制御が難しい、そして生活に支障が出ている。
最後の一つが、自分に当てて使えるところです。そして内省ではなく行動で書かれています。
- やらなくなったことの一覧が伸びている。 かけていない電話、延期した予約、断った誘い、通らなくなった道、9日開いていないメール。これがいちばん役に立つ指標です。感情が「縮んでいく生活」に変わる場所は、ほぼ必ず回避です。
- 決定が閉じなくなった。 迷っているのではなく、一度決めたことが夜中に開き直されることのほうです。
- 安心に半減期がある。 聞いて、楽になって、一日で切れる。そしてまた、たいてい別の人に聞く。
- 報告が身体に移った。 顎、胃、肩、睡眠、そして数えるようになった心拍。
- 理由が見当たらないまま、何か月も同じ。 理由のある悪い6週間は、悪い6週間です。理由のない悪い8か月は、別のものです。
避けるべき間違いは二つあり、重さは同じです。質問票に、ふつうに大変な時期を病気だと言わせないこと —— 不安の多くは生活に対する釣り合いの取れた反応で、直すべき場所は生活の側にあります。そしてもう一つ、「いまどきみんな不安だから」に、自分の「やらなくなったことの一覧」が静かに主張している受診を、取り下げさせないこと。
なお、夜になるとループが回り出して眠れない、というのがいちばん困っていることなら、それは不安の検査より考えすぎ(反芻思考)の線かもしれません。疲れているのに眠れない状態が何か月も続いている場合も同じで、そちらを先に扱ったほうが早いことがあります。喧嘩の夜に限って眠れないなら、口論のあと眠れない理由のほうが具体的です。
ここから先は、このページの仕事ではない
スクリーニングにできること: 直近に起きていたことを、臨床家が聞く順番と同じ区分で、整理して具体的に持っていけるようにすること。診察がその分だけ先から始まります。
できないこと: 診断すること。診断を除外すること。全般不安症とパニック症、病気不安症、社交不安症、トラウマ、そしてそれら全部に似る甲状腺の問題を見分けること。そしてそのどれを、いま自分の生活で起きていることと突き合わせて重みづけすること。この見分けは治療を変えます。だから採点規則ではなく人間がやります。
相談に行く目安。ない日よりある日が多い状態が数か月続いているとき。自分にとって大事なものを避け始めているとき。睡眠が定期的に削られているとき。角を丸めるために飲む量が増えたとき。そして、医師に身体的な原因を否定された後も症状が残っているとき。不安症は、医学の中では治療がよく効くほうの問題です。 そして放っておくと自然に解けるより固まっていく傾向があり、これは「早く行ったほうがいい」の根拠であって、「もっと早く行くべきだった」と責める根拠ではありません。
まだ何を相談したいのか言葉になっていない段階なら、その状態のまま電話できる窓口があります —— よりそいホットライン 0120-279-338(24時間・無料)。各自治体の精神保健福祉センターも、精神保健全般の相談を無料で受けています。
そして、考えが心配からここにいたくないほうへ移っているなら、それはこのページの話題ではありません。今日、誰かに話してください。いのちの電話 0570-783-556、または #いのちSOS 0120-061-338。
出典
- · Spitzer, R. L., Kroenke, K., Williams, J. B. W., Löwe, B. (2006). A brief measure for assessing generalized anxiety disorder: the GAD-7. Archives of Internal Medicine.
- · Plummer, F., Manea, L., Trepel, D., McMillan, D. (2016). Screening for anxiety disorders with the GAD-7 and GAD-2: a systematic review and diagnostic metaanalysis. General Hospital Psychiatry.
- · Kessler, R. C., Chiu, W. T., Demler, O., Merikangas, K. R., Walters, E. E. (2005). Prevalence, severity, and comorbidity of 12-month DSM-IV disorders in the National Comorbidity Survey Replication. Archives of General Psychiatry.
- · Kroenke, K., Spitzer, R. L., Williams, J. B. W., Monahan, P. O., Löwe, B. (2007). Anxiety disorders in primary care: prevalence, impairment, comorbidity, and detection. Annals of Internal Medicine.
- · Ishikawa, H., Kawakami, N., Kessler, R. C., World Mental Health Japan Survey Collaborators (2016). Lifetime and 12-month prevalence, severity and unmet need for treatment of common mental disorders in Japan: results from the final dataset of World Mental Health Japan Survey. Epidemiology and Psychiatric Sciences.
- · 土居健郎 (1971). 『「甘え」の構造』. 弘文堂.
- · 日本精神神経学会 (2014). DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版). 精神神経学雑誌, 116(6).