三人婚
三人が互いに恋愛関係を結ぶ形。トライアドとV字の違い、日本に承認する制度が無いという事実、そして三人だから起きること。
関係の科学
三人婚とは、三人が互いに恋愛関係にあり、継続的な約束を結んでいる関係のことです。英語では three と couple を合わせた throuple、ポリアモリーの用語ではトライアドと呼ばれます。日本語では「三人婚」「三人の関係」と書かれることが多く、スループルという表記は関係の意味ではほとんど使われていません。
特徴は二つあります。三人全員が互いに関係を持っていること、そして多くの場合、その三人の外には開いていないこと。後者があるため、ポリアモリー全体とは区別されます。位置づけとしては合意のある非一夫一妻の一形態です。
三人の形は一つではない
三人と言っても構造はいくつかあり、中にいる人にとっては違いが決定的です。
- トライアド —— 三人が互いに恋愛関係にある形。「三人婚」で多くの人が思い浮かべるのはこれですが、実際の割合は言葉の印象より低いです。
- V字 —— 一人が二人と関係を持ち、その二人の間には恋愛関係がない形。中心にいる人をヒンジ、端の二人は互いにメタモアと呼びます。V字はトライアドの失敗形ではありません。意図してV字で続いている例は多く、ヒンジが調整の負担をほとんど引き受けます。
- 閉じたV字 —— V字のまま、三人の外には関係を持たないと合意している形。
- クアッド以上も同じ論理で、人数と辺が増えるだけです。
覚えておくと見通しがよくなる計算があります。n人のグループに含まれる二者関係の数は n(n−1)/2 で、三人なら3本、四人なら6本。負担が増えるのは人数ではなく関係の本数です。
日本で三人の関係は違法なのか
日本語で最も多い誤解を先に片付けます。三人で交際すること、三人で暮らすことを禁じる法律はありません。
重婚罪(刑法184条)が罰しているのは、婚姻届を二重に出すことです。届を出していない三人の関係は、ここに当たりません。
ただし、承認する制度が一つも無いという点では、日本は英語圏より徹底しています。憲法24条と民法732条により、婚姻は二人のものです。そして日本に特有なのはその先です。事実婚(内縁)も、二人しか成立しません。同じ比重の内縁が複数並び立つことは考えにくい、というのが判例上の理解で、配偶者がいる人の別の内縁関係(重婚的内縁)は、法律婚が形骸化している場合を除いて原則として保護されません。つまり、婚姻の外側にある受け皿も、二人用に作られているということです。
英語圏の記事には「一部の都市や州が複数パートナーの家族関係を認めた」という話が出てきますが、日本には対応する制度がありません。三人で備えようとすると、手段は一般的な民法上の道具に限られます。公正証書遺言、任意後見契約、生命保険の受取人指定、賃貸契約の連名、医療に関する意思表示。
同性カップルが使ってきた普通養子縁組を検討する人もいますが、三人のうち二人しか当事者になれず、その二人は以後互いに婚姻できなくなります。 三人の関係に対しては非対称な手段で、そこを承知のうえで選ぶものです。
どう始まり、どこで壊れるか
始まり方は大きく二つで、壊れ方が違います。
既にあるカップルが三人目を迎える。 最も多く、最も難しい道です。カップルの側には歴史があり、住居と家計があり、二人で決める習慣があります。問題は形ではありません。三人目が、自分が参加していない取り決めの中に入れられ、それを変える権限を持たないことです。
三人で最初から作る。 数は少ないのですが、構造としては均等です。どの二人も、決め方についての先行権を持っていません。
実務家の記録で続く三人組と続かない三人組を分けているのは、相性でも熱量でもなく、後から入った人が取り決めを実際に変えられるかどうかです。変えられないなら、それはカップルと付属品であり、その説明どおりの終わり方をします。だから最初に確かめるとよいのは、三人目に求める条件ではなく、自分が境界線をどう引く人なのかです。
三人であることの固有の難しさ
二対一は構造上いつでも成立します。 二人の意見の相違は対称ですが、三人では、どの対立も二人対一人になりえます。悪意は必要なく、算数で起きます。続いている三人組は、これに早い段階で名前を付けて、見張っています。
時間は三等分できません。 三つの二者関係と全体で、守るべき時間は四種類あり、削られるのはたいてい一番新しい二者関係です。
説明するかしないかが、常設の判断になります。 三人で暮らしていれば、職場、学校、大家、親族から質問が来ます。日本ではそこに、住民票の続柄や賃貸の入居審査という具体的な場面が加わります。そして三人の中で、どこまで話すかの意見が一致しないことがある。これは外の人の問題ではなく、三人の間の葛藤として扱うほかありません。
日本に参照点はあるのか
少ないのですが、無いわけではありません。岡本一平・岡本かの子と堀切茂雄が同じ家で暮らした期間は、日本でこの形を語るときに最もよく引かれる例です。現代では、語彙を先に用意してきたのはむしろフィクションの側でした。参照点が少ないことは、実践が無いことを意味しません。見えている例が少ないだけで、当事者は手本なしで設計することになります。
研究の側は地味な結論を出しています。比較研究は、三人の関係が二人の関係より満足度が低いとも、不安定だとも示していません。わかっているのは、カテゴリの中のばらつきが、カテゴリ間の差よりはるかに大きいということです。構造は変数ではありません。
変数になるのは、ごく普通のものです。面倒なことを早めに言えるか、嫉妬を判決ではなく情報として扱えるか、葛藤のあとに修復が起きるか。これは三人それぞれで違い、人数が増えても平均されません。
出典
- · Sheff, E. (2013). The Polyamorists Next Door — longitudinal work including triads.
- · Balzarini, R. N., et al. (2019). Demographic comparison of primary and secondary relationships. Journal of Sex Research.
- · Conley, T. D., et al. (2017). Investigation of Consensually Nonmonogamous Relationships. Perspectives on Psychological Science.