恋愛用語の意味
告白、キープ、脈あり、セフレ、匂わせ、蛙化現象 —— 日本語で実際に使われている関係の呼び名を、意味と使われ方の癖ごと。
関係の科学
日本語の恋愛用語は、英語圏の略語とほとんど重なりません。向こうが LTR や FWB のような頭字語で関係を名指すのに対し、日本語で使われているのは告白・キープ・脈あり・セフレ・匂わせといった、辞書に載らないまま定着した言葉です。ここではそれを、意味と、使われ方の癖ごと並べます。
読むときに一つだけ。呼び名が言っているのは、その人がどういう人かではなく、いま何を探しているかです。 去年キープと呼ばれていた関係が今年は結婚になっていることもあり、どちらも固定した分類ではありません。
英語の略語のほうは、海外の利用者のプロフィールで出会うことがあるので、最後に付録としてまとめてあります。
関係の段階を指す言葉
告白 —— 交際の開始をはっきり区切る手続き。「付き合ってください」と言い、受けるか断るかで答える。英語圏にはこれに当たる儀式がありません。 あちらは何となく始まって何となく決まっていくので、日本語の恋愛用語の中で最も訳の効かない語がこれです。区切りがある分、区切りが来る前の期間だけが宙に浮きます。
両片思い —— 互いに好意があるのに、双方がそれに気づいていない状態。
脈あり / 脈なし —— 相手に気があるかどうかの見立て。検索される量は大きいのですが、外から観察して当てる精度は、この語が期待されているほど高くありません。 当たらないから聞くしかない、というのが実際のところです。
キープ —— 本命にしないまま、連絡だけ切らずに置いておく相手。言われる側の語で、自分から名乗る人はいません。 呼ばれているかどうかを外から確かめる方法もないので、この語で検索する人が本当に必要としているのは判定ではなく、聞くかどうかの決心であることが多い。
倦怠期 / マンネリ —— 関係が停滞して見える時期。多くは関係の終わりの兆候ではなく、刺激が減ったあとに何が残るかが見えている時期です。
冷却期間 —— 別れる前に、合意のうえで距離を置く期間。期限を決めないと、事実上の自然消滅と区別がつかなくなります。
復縁 —— 一度別れた相手とやり直すこと。
関係の形を指す言葉
セフレ —— 性的な関係だけを持つ相手。英語の FWB(friends with benefits)と重なりますが、FWB が前提にしている「もともと友達だった」という条件は、日本語のセフレには入っていません。 訳語として並べると、この違いが消えます。
ソフレ(添い寝フレンド) / 飲みフレ —— 性的な関係ではない部分だけを共有する相手。英語に対応語がなく、日本語圏で増えた区分です。
不倫 / 浮気 —— 婚姻が絡むかどうかで語が変わります。英語の cheating と affair にも似た差はありますが、日本語は法律用語の「不貞行為」が背後にある分、線がはっきりしています。
ポリアモリー / メタモア / コンパージョン —— 全員の合意のうえで複数の関係を持つ形と、その周辺語。メタモアは「パートナーの他のパートナー」、コンパージョンは「パートナーが他の人と幸せそうにしているのを見て嬉しくなる感覚」。この三語は外来語のまま日本語圏で通用している数少ない例です(ポリアモリー)。
別居婚 / 週末婚 —— 婚姻関係のまま、住まいを分けたままでいる形。英語では LAT(living apart together)ですが、日本語のほうが語として定着しています。
オープンな関係 —— 二人の関係を保ったまま、性的には排他的でない形。
SNSから来た言葉
匂わせ —— 交際相手の存在を、それとわかる形でほのめかす投稿。写り込んだ手、店の名前、時間帯。英語に対応語がありません(soft launch が近いのですが、あちらは自分の関係を段階的に公開する行為で、動機が違います)。
蛙化現象 —— もともとは、好意を寄せられた途端に相手が嫌になる現象を指す語でした(藤沢伸介、2004年)。2023年に広まる過程で意味が動き、いまは「相手の些細な言動で冷めた」の意味で使われることのほうが多い。元の用法とは別物になっているので、人によって指しているものが違います。
既読スルー / 未読スルー —— 読んだうえで返さない、開かずに放置する。英語の ghosting とは別のもので、ghosting が連絡を断つことであるのに対し、こちらはやりとりの途中で止まっている状態を指します。
沼 —— 抜けられない状態。もとは趣味の語で、関係にも使われるようになりました。
束縛 —— 相手の行動や交友を制限すること。程度の語なので、強くなると支配のある関係の側に入ります。線は強さではなく、一方がもう一方を管理しているかどうかで引かれます。
重い —— 感情や要求の量が過剰だと評される言い方。記述ではなく評価の語で、言われた側にわかるのは量だけで、何が多すぎるのかはわかりません。 自分が何を必要としていて、どこから先は相手の領分かを先に見ておきたい場合は、境界線がその材料になります。
マチアプ —— マッチングアプリの略。
付録:英語圏のプロフィールで見る略語
日本語圏ではほとんど使われませんが、海外の利用者のプロフィールや英語の記事では普通に出てきます。日本語の語彙として覚える必要はなく、読めれば足ります。
- LTR —— long-term relationship。真剣な交際を探している、の意。排他性についても結婚についても何も言っていません
- NSA —— no strings attached。恋愛的な約束を伴わない性的な関係
- FWB —— friends with benefits。もともと友人であることが条件に入っている点が、日本語のセフレと違います
- DTR —— define the relationship。「この関係は何なのかを話す」という会話そのものを指す語。日本語で言えば告白の手前の話し合いですが、区切りの儀式がない文化ではこれが区切りの代わりになります
- ENM / CNM —— ethical(consensual)non-monogamy。合意のある非一夫一妻の総称
- situationship —— 友達以上恋人未満に当たる語。ただし向こうには告白がないので、曖昧さの出方が違います
出典
- · Rubin, J. D., Moors, A. C., Matsick, J. L., Ziegler, A., Conley, T. D. (2014). On the margins: considering diversity among consensually non-monogamous relationships.
- · Haupert, M. L., et al. (2017). Prevalence of experiences with consensual non-monogamous relationships. Journal of Sex & Marital Therapy.
- · 藤沢伸介 (2004). 「蛙化現象」の研究 — 語の初出と、もとの意味。