ジョブ・クラフティング
転職せずに仕事を変える、という研究。病院清掃員の調査が見つけたもの、人が実際に作り替えている三つのもの、メタ分析が支えている範囲、そして日本の異動と「業務改善」がこの話をどうねじるか。
ウェルビーイングの科学
ジョブ・クラフティングとは、職務内容が同じ二人が同じ仕事をしているわけではない、という所見と、その差の一部は本人が書いている、という主張のことです。
エイミー・ヴジェスニエフスキとジェーン・ダットンが2001年に名付けました。きっかけは病院で見た光景です。同じ職務を割り当てられた清掃員たちが、自分の仕事を互いに両立しない言葉で説明しました。 掃除の話をする人がいる。ケアの一部の話をする人がいる —— 面会者の来ない患者に気づく、長期入院の人が午後に一人にならないよう回る順番を変える、動けない人の部屋の絵を掛け替える。職務記述書は一行も変わっていません。仕事のほうが変わっていました。
それ以前の考え方では、動機づけは上から設計されるものでした。ハックマンとオールダムの職務特性モデルは、いまも標準として、多様性・意義・裁量を設計者が役割に組み込むものとして扱います。ジョブ・クラフティングの主張は、就いている本人も設計者であり、たいていそれと気づかずにやっていて、しばしば組織図を持っている人より良い位置にいる、というものです。
人が作り替えている三つのもの
原論文のてこは三つで、それぞれ値段が違うので分けておく価値があります。
課題のクラフティング。 実際にやることを変える —— 得意な部分を引き受ける、誰かのほうが速い部分を交換に出す、誰も所有していないので役割に入っていない何かを足す。いちばん目に見えて、いちばん許可が要ります。
関係のクラフティング。 誰と、どうやるかを変える。どの同僚と働く関係を作るか、どの顧客を持つか、引き継ぎをメールでやるか会話でやるか。ほぼ常に手元にあって、ほぼ誰も話題にしないので、多くの人が引いていない最も安いてこです。
認知のクラフティング。 全体の枠づけを変える。掃除ではなくケアの一部である清掃員、問い合わせ件数ではなく誰かの最悪の朝に立ち会う仕事としてのサポート担当。これは無料で、そのぶん最も偽造しやすい。 何も変わっていない仕事について語られた物語は、クラフティングではなく耐え方です。
のちに仕事の要求-資源モデルの側から四つ目のてこが入りました。ティムス、バッカー、デルクスが尺度を組んだのは、資源と挑戦を増やし、妨げになる要求を減らすという語彙で、量的研究の大半はこの版を使っています。日本語版は江口らが2016年に作成・検証していて、日本のサンプルでも因子はおおむね同じ形で出ています。
証拠が支えている範囲
ルドルフらが2017年にメタ分析をしました。像は本物ですが、限界を添えたまま述べるべきものです。
クラフティング —— とくに接近志向のもの、構造的資源と挑戦を増やす側 —— は、エンゲージメント、職務満足、業績と関係し、燃え尽きの低さとも関係します。妨害的要求を減らす側は挙動が違い、ときにむしろ悪い。 ここは飛ばされがちな所見です。嫌な部分を静かに外していくことは、欲しい部分を足すのとは別の介入で、同じ効き方をしません。
正直な但し書きが二つ。
証拠の大半は横断的です。 よくクラフトしている人は良い結果を報告する。矢印はおそらく双方向で、元気のある仕事のほうが作り替えやすいからです。縦断研究と介入研究は数が少なく、効果は相関が示唆するより小さい。
クラフティングには余白が要ります。 同じメタ分析で、クラフティングは職務の裁量と関係していました。裁量がなく、空き時間もなく、打鍵数を数える管理者がいる役割は、クラフトできません。 そこにいる人に「工夫してみては」と言うのは、侮辱に近い。主体的性格との相関も同じ方向を指しています —— これはもともと動くほうの人にとって易しいので、それ以外の人の状況を過小に記述しています。
日本では、クラフトした仕事が数年ごとに解体される
ここから英語版に対応する節がありません。効果の有無ではなく、減価の速さが制度によって違うからです。
英語版の清掃員は、その職に就いているあいだ、自分で作った仕事を保持できます。作った順番、作った関係、作った意味づけが、そのまま翌年も使えます。定期異動とジョブローテーションのある組織では、そうなりません。
三つのてこは、異動に対する強さが違います。
認知のクラフティングは、いちばんよく持ち越せます。 何のためにやっているかという枠づけは、職場が変わっても本人と一緒に動きます。
課題のクラフティングは、部分的に持ち越せます。 得意な部分を引き受ける癖は残りますが、引き受けた具体的な仕事は置いていくことになります。
関係のクラフティングは、ほとんど持ち越せません。 そしてこれが、前の節で「いちばん安いてこ」と書いたものです。一年かけて作った五つの働く関係は、異動で一度に手放されます。日本の組織では、最も費用対効果の高いてこが、最も減価が速い。 これは英語圏の助言がまったく想定していない配分の問題です。
だから、日本語版の実務的な結論は英語版と少しずれます。関係のクラフティングをやめろ、ではありません。 二つです。一つ、異動の周期を知ったうえで投資する —— 残り一年の部署で五年分の関係資本を積むのは、悪い配分です。二つ、部署をまたいで残る関係を意識して一つか二つ作る。 同じ会社の中で、異動しても連絡が切れない相手のことです。これは制度が壊さない唯一の関係資本で、しかもたいていの人が偶然に任せています。働く場での関係の作り方そのものについては、愛着スタイルは職場にも出るのほうが扱っています。
もう一つ、日本の雇用形態に固有の事情を添えます。職務が先に決まっていない場合、「作り替える」の基準線がそもそも存在しません。 職務記述書が薄いか無い組織では、課題クラフティングは制度上ほぼ無制限に見えて、同時にまったく保護されていません。 増やした担当は、来年の前提になります。ここは仕事の価値観の項で書いた「所属が先に決まる」という話の、日々の作業における現れ方です。
「業務改善」とは何が違うのか
日本語には、課題クラフティングによく似た制度語彙が先にあります。業務改善。改善提案。QCサークル。 手順を見直し、無駄を省き、やり方を提案する。外形はほとんど同じです。
違うのは所有者と目的で、そこが逆を向いています。
改善提案は、組織が所有する活動です。 提案は上に出され、審査され、採用されれば横展開され、成果は組織のものになります。目的は組織の成果 —— 品質、コスト、時間。
ジョブ・クラフティングは、本人が所有する活動です。 誰にも提出されません。目的は本人の体験 —— この仕事が自分にとって何であるか。ヴジェスニエフスキの清掃員は誰にも提案していません。回る順番を変えただけです。
この二つを混ぜたまま研修をやると、出てくるのは改善提案書です。そして参加者は、自分の一日が何も変わらないまま、書類が一枚増えたことに気づきます。 区別の実用的な検査は一行で済みます。「これは、誰かに承認されないと成立しないか」。 承認が要るなら、それは提案です。要らないなら、クラフティングです。両方に価値がありますが、このページが扱っているのは後者だけで、後者のほうが承認を待たずに始められます。
この考え方が悪用されるところ
次の段落を書かないと、この項は不誠実になります。
ジョブ・クラフティングは、雇う側にとって組織心理学で最も都合のいい概念です。設計の問題を、本人の中に移し替えるからです。範囲が雑で、人員が足りず、意味の無い役割は経営の失敗です。「クラフティングしてみましたか」は、その失敗を、費用ゼロで自己啓発の機会に変換します。研究はそんな主張をしていませんし、ヴジェスニエフスキ自身の仕事はクラフティングが必要とする条件について慎重です。それを土台にした研修は、そうでないことがあります。
日本ではこの穴がもう一段深くなります。配属も異動も、本人が選んでいないからです。 自分で選んでいない持ち場について「自分で作り替えなさい」と言われる構図は、英語圏の職務応募型の労働市場にはありません。日本語でこの概念を紹介した研究書 —— 高尾義明と森永雄太が2023年にまとめたもの —— も、実践側の課題としてここを繰り返し扱っています。
検査は単純です。クラフティングは仕事の形に効き、条件には効きません。 どの課題を持つか、誰とやるか、自分にとって何を意味するかは変えられます。給与、敵対的な上司、必要量の半分の人員、そもそも資金が尽きかけている会社は変えられません。 問題が後ろの一覧にあるなら、クラフティングは自分の持ち出しで他人の問題を補填する方法で、その行き先は燃え尽き症候群の項が書いています。
区別を保つための生きた問いが二つ。「これが完璧にうまくいったとして、二年後もここにいたいか」。そして「自分がクラフティングで回避しているのは、作業か、人か」。
実際にどうやるか
一割五分から始めます。 ほとんどの仕事に、本当に自分の裁量である細い部分があります —— やる順番、二つのうちどちらに手を挙げるか、誰にも頼まれていない資料を書くかどうか。クラフティングはその細い部分で行うもので、上司と役割について話し合うより、小さな動きの蓄積としてのほうがうまくいきます。
だいたい持ちこたえる具体策をいくつか。
- 外すのではなく、交換する。 「あなたの顧客対応を引き受けるので、私の集計をお願いできますか」は提案です。「集計をやめたいです」は要望で、しかも分の悪い要望です。
- 隣にある、誰も持っていない問題を取る。 仕事の形を最も速く変える経路は、いま誰も所有していないものを所有することです。押しのける相手がおらず、求める許可もありません。
- 人から先に。 関係の動きは最も承認が要らず、日々の体験を最も変えます。ただし前の節のとおり、日本では異動で最も速く失われるので、部署をまたいで残る相手を意識して混ぜてください。
- 意味を、一度だけ、具体的な言葉で自分に対して言う。 「人の役に立っている」ではなく、先月この仕事が届いた実在の一人のこと。認知のクラフティングは、標語の高度に留まると失敗します。
どの方向にクラフトすればいいか分からないなら、足りていない入力はたいてい努力ではなく価値観です。キャリア価値観診断は自分が実際に何を最適化しているかを読み、キャリア興味マッチはどんな仕事に引かれるかを読みます。どちらも、クラフティングを試した後より前のほうが役に立ちます。 そして、この仕事のどんな形も自分の欲しいものではない、というのが答えなら、それは正当な結果です。そのときはキャリアにおけるサンクコストが、この項ではなく次の項になります。
出典
- · Wrzesniewski, A., Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review.
- · Wrzesniewski, A., McCauley, C., Rozin, P., Schwartz, B. (1997). Jobs, careers, and callings: people's relations to their work. Journal of Research in Personality.
- · Tims, M., Bakker, A. B., Derks, D. (2012). Development and validation of the job crafting scale. Journal of Vocational Behavior.
- · Rudolph, C. W., Katz, I. M., Lavigne, K. N., Zacher, H. (2017). Job crafting: a meta-analysis of relationships with individual differences, job characteristics, and work outcomes. Journal of Vocational Behavior.
- · Hackman, J. R., Oldham, G. R. (1976). Motivation through the design of work: test of a theory. Organizational Behavior and Human Performance.
- · Eguchi, H., Shimazu, A., Bakker, A. B., Tims, M., et al. (2016). Validation of the Japanese version of the job crafting scale. Journal of Occupational Health.
- · 高尾義明・森永雄太 編著 (2023). ジョブ・クラフティング —— 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ. 白桃書房.