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仕事の価値観

価値観の並びが測定にならない理由、順位付けが実際にやっていること、そして「安定」と「やりがい」という二語の扱い方。

性格の科学

仕事に何を求めるかと訊かれると、答えは並列になります。面白い課題、それなりの給与、まともな同僚、ある程度の裁量、意味がある感じ、眠れるだけの安定。誰も逆のことは言いません。みんな全部ほしい。

だからその並びは、情報としては何の値打ちもありません。そして、仕事の価値観の測定という分野がまるごと一つの動作 —— 取り上げること —— の上に組み立てられている理由もそこにあります。裁量を5段階の5、安定も5と付けられる尺度は、その人について何も学んでいません。二つが逆を向いたときどうするかをまだ訊いていないからです。そして現実では、問いはその形でしかやって来ません。二つの内定のどちらかを選ぶ、あの瞬間です。

仕事の価値観とは、決着をつける側の一つのことです。 全部は守れないときに守るほう。測定上の困難は、引き分けが起きるまで決着役は見えない、という点にあります。だから尺度のほうが引き分けを作ってやる必要があります。

評定では測れず、順位なら測れる

うまくいかない理由には技術的な名前があります。価値観は どれも社会的に望ましい のです。「人の役に立つ仕事をすること」を重要でないと評定する人はいません。ふつうの同意尺度でこれをやると天井に貼りつきます。全部が高得点、項目間の差は小さく、残るのはその人が尺度の上端をどれくらい気前よく使うかという癖だけ。信号は埋まります。

ロキーチが1973年に出した答えは、評定をやめることでした。彼の価値調査は十八枚のカードを渡して全部を順位付けさせます。価値には他の価値との相対でしか意味がない、という主張です。以後の道具はすべてこの発想との交渉で、一対比較、同じくらい魅力的な文の中からの強制選択、百点しかない持ち点の配分、といった形を取ります。そして順位付けの代償ははっきりしていて、書いておく価値があります。

順位の得点は相対値で、絶対値ではありません。 裁量が一位に来たなら、それはあなたの他の価値観に勝ったという意味です。隣の人より裁量を欲しがっているという意味ではありません。同じ形のプロフィールの二人が、そもそもどれくらい気にしているかで大きく違うことがあります。順位は どれか に答え、どれくらい には決して答えません。価値観レポートの誤読は、ほぼ全部この一文を忘れるところから始まります。

もう一つ。同点は失敗ではなく所見です。 二つが並んで出たとき、それは尺度が決着をつけられなかったのではありません。報告書の中で最も使える一行であることが多い。片方を満たしてもう片方を飢えさせる仕事こそ、人が実際に就いて、なぜ嫌なのか説明できなくなる仕事だからです。

二つの系統があり、仲が悪い

この分野の道具は二つの系譜のどちらかに属していて、違いは飾りではありません。

スーパーの系統は、仕事の価値観を「報酬の目録」として扱います。 ドナルド・スーパーの Work Values Inventory(1970)が訊いたのは、仕事に何を 与えてほしいか —— 達成、独立、安定、威信、利他、変化、経済的報酬 —— でした。デイビスとロフキストの職業適応理論も同じ論理を形式化しています。人には欲求があり、環境には強化子があり、満足はその対応である、と。エドガー・シャインのキャリア・アンカーもここに属し、十年ほど働くと多くの人が手放せない一つの錨を見つける、しかもそれは仕事が選択を強いたときにしか見つからない、という有用な主張を足しました。

この系統では価値観は カタログ です。項目は自由に足せるし削れるし、二つが必ず衝突すると言っている理論的な理由はありません。

シュワルツの系統は、価値観を「衝突が組み込まれた構造」として扱います。 シャローム・シュワルツのモデルは1992年までに二十か国で検証され、その後さらに多くの国で確かめられていますが、基本的価値を円環に並べ、隣り合うものは両立し、向かい合うものは構造的に両立しない、とします。自己志向と同調を同時に最大化することはできません。片方に沿って動くことが、もう片方を妨げるからです。ロス、シュワルツ、スルキスは1999年に仕事の価値観をこの円の上に写像しました。内発的な価値観は変化への開放性の側に、外発的なものは安全と同調の側に、社会的なものは自己超越の側に、威信は自己高揚の側に。

帰結は鋭いです。スーパーの枠では「裁量も安定もほしい」はごく普通の一対の好みです。シュワルツの枠では、それは円の反対側に同時に立っているという報告であり、緊張は整理すれば消える個人的な不手際ではなく 幾何学 です。どの仕事もしっくり来なかった理由を探している人の多くは、これを記述しています。

日本語で「安定」を順位に入れるとき、何が起きているか

ここからは英語版に対応する節がありません。順位付けという形式は同じでも、並んでいる選択肢の意味が制度によって違うからです。

日本の価値観リストに「安定」が入ると、それは他の項目と独立した一項目として振る舞いません。長期雇用と年功的な処遇が残っている範囲では、安定・経済的報酬・所属の三つが 同じ一つの行動 —— 同じ会社に居続けること —— にまとめて掛かります。シュワルツの円の上では安全と自己高揚は別の位置にありますが、選べる選択肢のほうが両者を束ねて出してくるなら、順位付けはその二つを分離できません。これは価値観の構造の問題ではなく、選択肢の設計の問題です。 そして、選択肢の設計は個人の側にはありません。

もう一つ、事実の側を正確にしておく必要があります。小野浩が2010年に複数のデータで推計したところ、日本で終身雇用に該当する形で働いている人は、多く見積もっても労働者の二割程度でした。上林と加藤が2017年に日米を比べた研究も、長期雇用の中核部分は残っているが全体を覆ってはいない、という向きの結果を出しています。つまり、「安定」を一位に置くことと、安定が手に入ることは別の話です。 順位は希望の記録であって、市場の記録ではありません。

濱口桂一郎の言い方を借りれば、日本の正社員採用で先に決まるのは職務ではなく所属です。すると「安定」を選ぶという行為は、職業の安定(どこでも通用する技能を積むこと)ではなく、所属の安定(この組織に残ること)を選ぶことになりやすい。この二つは長い目で見ると逆を向くことがあります。同じ語に二つの意味が乗っているので、順位を取る前にどちらの意味で答えているのかを自分で決めておかないと、結果は読めません。 転職を選択肢として持つかどうかを考えている段階なら、「積極的な退職」を選ぶべきでしょうかがこの分岐そのものを扱っています。

「やりがい」は一語で二つを束ねている

もう一つ、日本語の項目リストに特有の語があります。「やりがい」です。

英語の価値観尺度では、意味(meaningful work)と報酬(economic return)は別の項目です。別の項目だからこそ、順位付けはその二つを競わせられます。ところが日本語の「やりがい」は、仕事の意味と、報われている感じの両方を一語で指します。だから「やりがいを重視する」と答えた人が、何を何と交換したのかは、その答えからは分かりません。

この束ね方には、労働社会学の側からの記述があります。本田由紀が2008年に「やりがいの搾取」として書いたのは、適正な賃金や労働時間を保証しないまま、「やりがい」を付け足すことで高い水準のエネルギーと時間を引き出す構図でした。ここで効いているのは、意味が報酬の代わりに通用してしまう という一語の性質です。二つが別項目であれば、意味を取って報酬を捨てるという選択は本人に見えます。一語になっていると見えません。

だから、価値観の結果に「やりがい」が上位で出たときにやる価値がある作業は一つです。その語を 意味報われ感 に割ってから、もう一度順位を付け直すこと。割ったあとも両方が上位なら、それはそのとおりの人です。片方だけが残るなら、元の順位は測定ではなく合成でした。 意味だけが残った側は、燃え尽き症候群の入口に最も近い並びでもあります。

価値観の一致は何を予測するのか

応用側の主張は、自分の価値観と組織の価値観が合っていると働く生活が良くなる、というものです。これは適合に関する主張のなかでは持ちこたえているほうですが、何が測られているかについて注釈が要ります。

クリストフ=ブラウン、ジマーマン、ジョンソンの2005年のメタ分析は、混ぜて語られがちな適合の種類を分けました。個人と組織の適合(価値観の一致)は、組織へのコミットメント、組織への満足、残留意思と強く関係しました。個人と職務の適合(要求と能力の一致)のほうは、仕事そのものへの満足や業績と強く関係しました。これは二つの別の問いで、一般向けの記事はここを混ぜます。価値観の一致が教えてくれるのは、その場所に残り、その場所と自分を重ねるかどうかです。仕事が上手くできるか、火曜日が楽しいかについては、ずっと少ないことしか言いません。

注釈のほう。この文献で最も大きな効果は 知覚された適合 —— 同じ人が自分の価値観と組織の価値観の両方を報告する設計 —— から出ています。その設計では適合と全般的な満足を分離できず、相関は膨らみます。二つを独立に測ると、関係は残りますが小さくなります。実在はする。ただしコンサルティング資料が言うより小さい。

自分の結果を読む

三つやると、価値観の結果は飾りではなく使えるものになります。

自己像ではなく、直近の三つの決定に突き合わせる。 価値観は口にするのは安く、実行するのは高い。そのずれのところに自己理解のほとんどがあります。安定が四位なのに三年で二つの仕事を危なそうだからと断っているなら、信じるべきは行動のほうです。順位は仮説で、実際の選択がデータです。

不満の裏にある一項目を特定する。 書類の上では問題がないのに静かに削られていく仕事は、全般的に失敗しているのではなく、たいてい特定の一つの価値観を飢えさせています。どれかが分かると打つ手が変わる。辞めることが答えのこともありますが、条件の交渉で済むことのほうが多く、そのためにはどれを買い戻したいのかを先に知っている必要があります。

興味と混ぜない。 職業興味はどんな活動が注意を引き留めるかを記述し、価値観はその活動に何の値打ちがあってほしいかを記述します。この二つは絶えず食い違います。面白いが薄給の仕事も、退屈だが午後を買い戻せる仕事も、どちらも筋の通った選択です。どちらが間違いかは、あなたしか持っていない順位が決めます。自分の順位を一度きちんと取ってみたいなら、キャリア価値観診断は勝者を宣言する代わりに、対立している組を名指しする設計になっています。同点が出たときに正直なのはそちらだからです。

最後に、文献が正当に主張できる注意を一つ。価値観はライフステージで動きます。住宅ローンや子どもが来ると、何を差し出せるかが変わる。五年前のプロフィールは記録であって、現在の測定ではありません。前に受けた結果がもう自分らしく聞こえないなら、正直な解釈はたいてい「あのときは合っていた」です。

出典

  • · Rokeach, M. (1973). The Nature of Human Values. Free Press.
  • · Super, D. E. (1970). Work Values Inventory. Houghton Mifflin.
  • · Dawis, R. V., Lofquist, L. H. (1984). A Psychological Theory of Work Adjustment: An Individual-Differences Model and Its Applications. University of Minnesota Press.
  • · Schwartz, S. H. (1992). Universals in the content and structure of values: theoretical advances and empirical tests in 20 countries. Advances in Experimental Social Psychology.
  • · Ros, M., Schwartz, S. H., Surkiss, S. (1999). Basic individual values, work values, and the meaning of work. Applied Psychology: An International Review.
  • · Schein, E. H. (1990). Career Anchors: Discovering Your Real Values. Pfeiffer.
  • · Kristof-Brown, A. L., Zimmerman, R. D., Johnson, E. C. (2005). Consequences of individuals' fit at work: a meta-analysis of person–job, person–organization, person–group, and person–supervisor fit. Personnel Psychology.
  • · Ono, H. (2010). Lifetime employment in Japan: concepts and measurements. Journal of the Japanese and International Economies.
  • · Kambayashi, R., Kato, T. (2017). Long-term employment and job security over the past 25 years: a comparative study of Japan and the United States. ILR Review.
  • · 濱口桂一郎 (2021)『ジョブ型雇用社会とは何か —— 正社員体制の矛盾と転機』岩波新書.
  • · 本田由紀 (2008)『軋む社会 —— 教育・仕事・若者の現在』双風舎.

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