「一からやり直し」という言い方が、この決断をいちばん重くしています。ほとんどの場合、やり直しではありません。移せるものが、いまの仕事の内側からは見えないだけです。十年の中身は、肩書きよりずっと分解できます。
だいたい何が起きているか
埋没した費用を資産として数えている。 これまで注いだ年数は、これからの判断には関係ありません。関係するのは、いま持っている技能が次でいくらで売れるかだけです。この算入の間違いがどう働くかは埋没費用の項にあります。
二軸を同時に動かそうとしている。 職種も業界も変えると、共通言語がゼロになります。共通言語がゼロの転職は、経歴ではなく人柄で採用される転職で、時間も賃金も高くつきます。
本当に欲しいのは、いまの仕事の一部分だけ。 週の一割しかやっていない作業が、いちばん時間を忘れる作業である —— これは非常によくある形で、しかも職種を変えずに割合を変えられることがあります。
雇い主から逃げているのを、職業の問題と呼んでいる。 この二つを分けないと、同じ職種の別の会社で解決する問題のために、職種を捨てることになります。
やった人に一人も話を聞いていない。 移った先の一日の実際は、外からは想像できません。二人に話を聞くだけで、判断の材料の質が変わります。
日本では、社内の経路を先に使い切る
職務ではなく所属で採用されている雇用には、外からは見えにくい利点が一つあります。会社を変えずに職務を変える経路が、制度として存在することです。社内公募、異動希望、兼務。どれも、転職に比べて格段に安い実験です。
安さの内訳は三つあります。賃金の帯が動かない。 人間関係の資本を持ち越せる。 そして失敗したときに戻れる。 外に出る実験には、この三つがどれもありません。
数字の側も同じ向きを示します。転職で賃金が上がったのは40.5%、下がったのが29.4%、変わらないのが28.4%。外に出ることそのものが上向きの装置ではない。 出るなら、出る理由は賃金以外に持っていたほうが確実です。
もう一段手前の手もあります。いまの職務の中で、比率と接点を組み替えること —— ジョブ・クラフティングが扱っている範囲で、これは上司の許可だけで始められます。転職、異動、組み替えの三つを、費用の安い順に試すのが合理的な順序です。
何によって変わるか
移る先を、逃げる方向ではなく動作で決めるために、まずいまの仕事のどこが合っていないのかを分けたうえで、職業興味の検査を使います。六つの領域のどれに引かれているかが分かると、求人票を職種名ではなく一日の中身で読めるようになります。
年齢については、研究が言っているのは一貫しています。効くのは年齢ではなく移行の費用です。四十歳で、いま知っていることを使う移り方は安い。二十五歳で、ゼロから始める移り方は高い。遅いかどうかは暦ではなく、残っている助走距離の問題です。