人を信じられない(人間不信)
信じられなさはどこから来るのか。信用と信頼の分かれ目、安心させる言葉が効かない理由、そして立て直しに要るもの。
関係の科学
人を信じられないという状態は、日本語ではたいてい人間不信という一語で言われます。その言い方だと、持って生まれた性格か、一度なったら戻らない状態のように聞こえます。
より正確には、これは予測です。相手は言ったとおりにするか、自分が見ていないところでも自分の利害を勘定に入れるか —— 手元の証拠から立てた見込みのことです。
区別が効くのはここです。予測は更新されますが、性格は更新されません。 そして予測には対象があります。誰について、どの場面で、何を見込んでいるのか。人間不信という語は、その対象と範囲を消してしまいます。
「人間不信」という言い方が何をしているか
日本語のこの語は、状態ではなく人格の完成形として振る舞います。「人間不信になった」と言えてしまう。なった、で話が終わる。英語の trust issues はまだ領域に貼りついているぶんましで、日本語のこの語は対象も期限も持ちません。
同じ働きをする言い方が周りにいくつもあります。「疑り深い」「心を開かない」「壁がある」。どれも人物の評価で、記述ではありません。評価として渡されると、何が起きているかを言う言葉が手元に残らなくなります。
記述に戻すと、たいていかなり狭い話になります。信じられないのは人類ではなく、特定の場面です。返信が遅いとき。予定が急に変わるとき。「大丈夫」とだけ返ってきたとき。範囲が狭いほど扱えます。 人間不信のままでは、相手も自分も何をすればいいのか分かりません。
「信用」と「信頼」はどこで分かれるか
日本語はこの話をするのに有利な語を二つ持っています。信用と信頼です。信用は実績に対して積む。信用がある、信用を失う —— 過去の記録の話です。信頼は実績の外に出ます。まだ起きていないことについて、相手がまともに振る舞うほうに賭ける。
レンペル、ホームズ、ザナが1985年に出した枠組みは、この二つの日本語にほぼそのまま重なります。彼らが分けたのは三段でした。
予測可能性 —— 行動が一定していること。いちばん低い段で、善意を要求しません。確実に不親切な人も、予測可能です。
信用(依存できること) —— 自分に負担がかかる場面でも、当てにできること。日常の信用のほとんどはここに住んでいます。
信頼(賭けの部分) —— まだ二人とも経験していない状況で、相手がまともに振る舞うという見込み。証拠では埋められない段です。定義上、試されていないことについての話だからです。
壊れ方は段ごとに違います。だから「あなたが信じられない」という一文は役に立ちません。行動が読めなくなった人と、行動は変わらないのに賭けの部分が消えた人とでは、必要なものが別だからです。
どこから来たのかを三つに分ける
出どころは三つあり、それぞれ違う対応を要求します。
この関係で起きたこと。 嘘、心の浮気、重い約束が破られた。この場合の不信は、手元の証拠の正しい読み方です。傷ついた側が自分で処理すべき問題として扱うのが、修復がいちばんよく失敗する形です。
前の関係で学んだこと。 別の場所で立てた予測を、ここに当てている。不合理ではありません —— 一度は当たっていたのです —— が、当てられている相手はそれをやっていません。
もっと早い時期の愛着。 応答が安定しなかった養育者のもとでは、監視が合理的な戦略になります。応答が読めないなら、読めるまで見ているほうが安全だからです。これは不安型の愛着として最もはっきり出ます。確認、読み返し、一時間だけ効く安心。出どころの整理は愛着理論にあります。
見分ける問いは単純です。この関係に証拠があるのか、それとも持ち込んだパターンなのか。 どちらも正当です。ただし解き方が違い、パターンを証拠として扱うか、証拠をパターンとして扱うかが、二人が何年も同じところで止まる場所です。
安心させる言葉が効かない理由
相手の不信に対していちばんよく返されるのは保証です。「浮気なんてしてない」「心配しなくていい」。効きます。効き目は時間単位です。
理由は仕組みの側にあります。保証は個別の問いに答えるだけで、その下にある予測には触れません。 そして、聞く・答えてもらう・少し楽になる、という一続きの動作は、繰り返すほど強くなる輪です。だから要求は収まらず、たいてい増えます。この輪が本格的になると恋愛強迫症(ROCD)の領域に入り、そこでは保証は症状の燃料そのものとして扱われます。
予測を実際に書き換えるのは、頼まれないまま時間をかけて積み上がった証拠です。差し出された透明性 —— 明け渡したのではなく、自分から開いたもの。演技ではなくなるだけの長さの一貫性。保証より遅く、そのかわり複利で効きます。
信じる側にはもっと厳しい対価があります。どこかで、証拠が揃いきる前に「そういうものとして扱う」ことを始めないといけません。 確証を待つ信頼は信頼ではなく検証で、検証には終わりがありません。
裏切りのあとと、信頼の話ではない場合
裏切りのあとの立て直しについて、文献は両側に対してかなり要求が高いことを言っています。
破った側に要るのは、小出しにしないことです。分割して出される真実は、そのたびに時計を最初に戻します。連絡を細らせるのではなく終えること。求められて渡すのではなく、自分から開いていること。そして、不公平に感じ始めてからもそれを続けること。同じ問いをもう一度聞かれるのを、不当な扱いとして扱わないこと。
立て直す側に要るのは、どこかで決めることです。ゴットマンはここを容赦なく書いています。裏切りが、以後のあらゆる口論で証拠として使える状態のまま残る関係は、回復しません。 修復には、蒸し返す権利をいずれ手放すことが含まれます。何をもって区切りとするかを声に出して決めるのは、期限どおりに信頼が戻るからではなく、終わりの無い償いが、責任の不在と同じくらい確実に関係を腐らせるからです。実際の作業は対立と修復の領域で、対立スタイル診断はそれを二人がどの形で始めるかを読みます。信頼パターン診断が読むのは、自分の不信がどの段で止まっているか。アタッチメント・スタイル診断は、それが今回の相手の話なのか、前からの持ち物なのかを分けます。
最後に、信頼の話ではない場合を書いておきます。予定の報告を求められる、連絡先や外出を制限される、位置情報を常時共有させられる、携帯を勝手に確認される。 これは信頼の欠如ではなく支配で、透明性を増やしても要求は減りません。DV相談+ 0120-279-889(24時間)は、暴力と呼んでいいかを自分で決める前にかけていい線です。
出典
- · Rempel, J. K., Holmes, J. G., Zanna, M. P. (1985). Trust in close relationships. Journal of Personality and Social Psychology.
- · Simpson, J. A. (2007). Psychological foundations of trust. Current Directions in Psychological Science.
- · Gottman, J. M. (2011). The Science of Trust: Emotional Attunement for Couples.
- · Glass, S. P. (2003). Not 'Just Friends'.