恋愛強迫症(ROCD)
関係についての疑いが、迷いではなく強迫症の形で回るとき。ふつうの不安との違いと、なぜ普通の助言が悪化させるのか。
関係の科学
ROCD(関係強迫症)とは、強迫症(強迫性障害)の強迫観念が、恋愛関係そのものに貼りついた現れ方のことです。イスラエルの心理学者ガイ・ドロンらが記述し、名前をつけました。独立した診断名ではありません。 強迫症の、内容が特定されたひとつの形です。
日本語には定訳がなく、「恋愛強迫症」も正式な病名ではありません。ここでは分かりやすさのために使いますが、診察室で通じるのは強迫症のほうです。
このページは説明であって、判定ではありません。 強迫症を診断するのは医師で、ここには採点表も目安の数も置きません。それでも書く理由は実際的です。ROCD はふつうの関係の迷いと取り違えられやすく、ふつうの迷いに対する標準的な助言は、ROCD をはっきり悪化させます。
二つの形と、そこで起きていること
ドロンの枠組みは二つを分けています。たいていの人は両方を少しずつ持っています。
関係に向くもの。 疑いの対象が関係そのものです。本当に好きなのか。この人でいいのか。もし違ったら気づけるのか。同じ問いが何百回も立ち、答えても答えたままでいてくれません。
相手に向くもの。 相手のどこか一点 —— 見た目、話し方、知性、人前でのふるまい —— が気になって外せなくなる。そして、気になっているという事実そのものが証拠のように感じられます。
強迫症であって迷いではないのは、そこに強迫行為が付くからです。自分の気持ちを何度も確かめる。相手や友人に聞いて確かめる。よその関係と比べて確かめる。過去の場面を頭の中で再生して確かめる。検索して確かめる。ここに並べたものを数えて何個以上、という読み方はしないでください。 確かめること自体が強迫行為なので、このページを自己採点表として使うと症状に餌をやることになります。数ではなく、次の節の動き方のほうを見てください。
ふつうの迷いとどこが違うのか
ここが分かれ目で、区別に効くのは四つです。
迷いは決着し、ROCD は決着しません。 本当の関係の迷いは情報に反応します。会話、時間、決断。ROCD の疑いは、答えが出た数時間後に、まったく同じ形で戻ってきます。
苦しさの中心が、関係ではなく疑いのほうにあります。 ROCD の人はたいてい、好きだと思っている相手を疑ってしまうことに苦しんでいます。ふつうの迷いは、関係の具体的な何かを指しています。
保証の効き目が、回を追うごとに短くなります。 これがいちばん見分けやすい動き方です。安心させる言葉は分単位の安堵を生み、次の安心の必要量を上げる。強迫行為に共通する仕組みです。
思考が自分のものに感じられません。 結論に近づいている感じではなく、外から来た異物のように感じられます。
不安型の愛着との重なりは実際にありますが、同じものではありません。愛着不安は「相手が応じてくれるか」についての予測で、応答が安定して示されれば収まります。ROCD は収まりません。仕組みが答えの側ではなく、確かめる動作の側にあるからです。 予測のほうの話は人を信じられないに、夜に同じ場面が回る部分は反芻にまとめてあります。反芻のほうには強迫行為が付きません。
「巻き込み確認」と、よくある助言が悪化させる理由
日本の強迫症臨床には、この話に使える語が先にあります。巻き込み型、あるいは巻き込み確認。本人の不安を打ち消すために、家族に確認させたり「大丈夫」と言わせたりする行動を指し、自己完結型と分ける整理は医療機関の説明ページにもよく載っています。
ROCD の保証希求は、形としてこれと同じものです。 相手が答える。その場は収まる。数時間で戻る。次はもう少し強い保証が要る。家族向けに書かれてきた対処は、そのまま恋人にも当てはまります。
厄介なのはその先です。巻き込みを「愛情確認」と読む説明が、臨床の側にもあります。 くっついていたい、大事にされているのを確かめたい、という気持ちの表れだ、と。ROCD ではこの読み方が落とし穴になります。愛情の話として扱うと、答えるのが優しさになり、答えるほど症状が伸びるからです。
相手の側にできるいちばん難しくていちばん役に立つことは、保証を出すのをやめることを、優しく、はっきり言葉にして伝えることです。「あなたのことは好きだし、その質問にはもう答えない。答えることがあなたの助けになっていないから」。黙って引くのとは別のことです。
そして、一般的な恋愛の助言のほとんどは、ROCD に当てると強迫行為になります。
「ちゃんと話し合ってみたら」 は保証希求、「いいところを書き出してみたら」 は頭の中の確認作業、「自分の気持ちとよく向き合って」 は気持ちの確認 —— この症状の中核そのものです。そして 「迷っている時点で答えが出てる」 は積極的に有害です。侵入思考を情報として扱えと言っているからです。
ふつうの迷いの人は内省で楽になり、ROCD の人は善意の人たちから強迫行為を手渡され続けます。 手渡す側には恋人も入っていて、なぜ同じ会話を何度もするのか分からないまま、毎回きちんと答えています。
診断はどこで受けるのか、そして自己診断について
強迫症の診断は面接で行われます。 質問紙で確定するものではありません。医師が聞くのは、何個当てはまるかではなく、どのくらいの時間を取られているか、やめようとすると何が起きるか、生活のどこが実際に止まっているか、他の説明(不安症、うつ病)で足りないかどうかです。Y-BOCS のような尺度も、臨床家が面接で使う道具であって、自己採点用の表ではありません。
日本語で「強迫性障害 チェック」を引くと採点式の表が大量に出てきますが、ROCD の当事者にとってこの形式は二重に当てになりません。 一つは、どれも診断の代わりにならないこと。もう一つのほうが重要で、採点すること自体が確認行為だからです。 何度もやり直し、答えを変えて試し、点数が出ても数時間で不安が戻る。テストの精度の話ではなく、症状がテストを使っている、というだけの話です。
受診先は精神科か心療内科です。予約のときに「強迫症を診てもらえますか」と聞いておくと早い。何を相談していいかまだ決まっていない段階なら、よりそいホットライン 0120-279-338(24時間・無料)は、それが決まっていない人の電話を受けるための線です。
治療として何があるか
ここでいちばん役に立つ事実を。強迫症は、精神科領域の中では治療法がよく確立しているほうの疾患です。
曝露反応妨害法(ERP)が第一選択で、証拠も厚い。ROCD に当てると、疑いを抱えたまま強迫行為をしない —— 問いに答えない、確かめない —— という形になり、警報が自分で下がるのを確かめていく作業です。答えないほうが楽になる、という直感に反する手順です。
ACT や推論に焦点を当てた認知行動療法も使われ、ドロンらは ROCD 専用のアプリ介入で有望な結果を報告しています。薬物療法は主に SSRI で、これは医師と相談することです。
日本での条件も書いておきます。医師が行う認知療法・認知行動療法は、強迫症については診療報酬の対象に含まれています —— 対象疾患が限定されている中で、強迫症は入っているほうです。ただし実施できる施設は多くありません。 探すときは、一般的なカウンセリングやカップルカウンセリングではなく、強迫症と ERP を名指しで扱っているところを。ここは一般の対人支援と方向が逆を向く領域で、逆のまま丁寧にやると悪化します。
考えすぎ傾向テストや信頼パターン診断が読むのはループの音量と不信の形で、診断ではありません。 このページも同じで、渡せるのは疑いがどう動いているかという記述までです。
出典
- · Doron, G., Derby, D. S., Szepsenwol, O. (2014). Relationship obsessive compulsive disorder (ROCD): a conceptual framework. Journal of Obsessive-Compulsive and Related Disorders.
- · Doron, G., Derby, D., Szepsenwol, O., Nahaloni, E., Moulding, R. (2016). Relationship obsessive-compulsive disorder: interference, symptoms, and maladaptive beliefs. Frontiers in Psychiatry.
- · Abramowitz, J. S., Jacoby, R. J. (2015). Obsessive-compulsive and related disorders: a critical review. Annual Review of Clinical Psychology.