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精神的浮気

性的な接触のない浮気。合意された定義が無いこと、日本の法律ではどう扱われるか、チェックリストより効く一つの問い。

関係の科学

精神的浮気とは、性的な接触がないまま、パートナーが自分に向けられていると思っている親密さを別の誰かに向けている状態です。何かあったとき最初に報告する相手、夜に長くなるやり取り、まだ家では言っていない本音の置き場所。「心の浮気」、法律相談のページでは「プラトニック不倫」とも呼ばれます。

この項目は「浮気のサイン10選」から始めません。理由があります。この語には合意された定義が無く、他人の作ったチェックリストが定義の代わりになることはないからです。 具体的な行為を一つずつ挙げて判定してもらう調査では、ほとんどの項目で評価が割れます。同じ行為が、一方には明確な裏切りで、もう一方には何でもない。リストは、相手が同意したことのない基準で相手を有罪にする道具になりやすい。

はっきりしていることもあります。性的な接触が無いことは、傷が小さいという意味ではありません。 英語圏の複数の研究で、感情的な裏切りのほうが苦痛が大きいと評価され、回復にも時間がかかっています。

「浮気」「不倫」「精神的浮気」の違い

日本語はこの領域の語彙が英語より細かく、その細かさ自体に情報があります。

浮気は最も広く、交際中でも使われ、程度を含みません。不倫は少なくとも一方が既婚であることを前提にし、道徳的な重みと法的な含みを同時に背負います。両方が既婚ならW不倫(ダブル不倫)。性的関係の無いものを指してプラトニック不倫という言い方があり、この項目が扱っているのはそこです。英語ではこの全部が cheating と affair の二語に収まります。

実務的に効くのはここです。どの語を選ぶかで、話の性質が「約束の確認」から「断罪」に変わります。 「不倫でしょ」と名付けた瞬間、相手の仕事は説明ではなく防御になる。線引きの話をしたいのなら、まだ名前を付けない段階で始めたほうが話になります。

法的には「不貞行為」にあたるのか

先に片付けておきます。精神的浮気は、原則として法律上の不貞行為ではありません。

離婚原因を定める民法770条1項1号の「不貞な行為」は、判例上、配偶者以外の相手と自由な意思で性的関係を持つことと理解されています。性的関係の無い交際は、原則としてここに当たりません。相手方への慰謝料請求も、典型的に認められる場面からは外れます。

例外が無いわけではありません。性的関係が無くても、その交際が婚姻関係を実際に破綻させたと認められた場合に、不法行為として慰謝料が認められた裁判例はあります。ただし例外的で、額も低い傾向にある、というのが実務上の理解です。

読み取るべきことは一つです。法が線を引いているのは証明できるところであって、関係の中で傷になるところではありません。 「法的には認められない」は「傷ついていない」の言い換えではなく、逆に、法的に認められないことを理由に自分の感じ方を取り下げる必要もありません。

なぜ二人の線引きが合わないのか

裏切りが悪いことかどうかで揉めている二人は、ほとんどいません。揉めているのは、モノガミーがそもそも何を含んでいたのか、です。

一対一の関係が指定しているのは性的・恋愛的な排他性です。感情的な親密さをどこまで外に出していいかは指定していないし、それを事前に話し合った二人はほとんどいません。だから各自が前提を持ち込み、前提は食い違います。

  • 私的で濃い友人関係は許されるのか
  • 相手が恋愛の対象になりうるかどうかで変わるのか
  • 関係の中のことを外の人に相談するのは含まれるのか
  • 元恋人は他の人と違う扱いなのか

正解はありません。あるのは自分の答えと相手の答えで、それが一度も同じだと確認されていなかったという発見が、精神的浮気の揉めごとの中身です。線をどこに置くかの違いの一部は、それぞれの信頼のパターンで説明がつきます。

日本語圏では、この議論はたいていLINEの上で具体化します。頻度、深夜のやり取り、通知を切ったこと、履歴を消したこと。中身より、扱いが変わったことのほうが情報量が多いというのが、この議論でいちばん使える部分です。

チェックリストより効く問い

内容ではなく、秘密にしているかどうかです。

問いは「その関係は近すぎるか」ではありません。「そのやり取りを、頻度も口調も、何を話しているかも、通知が来たときの自分の感じ方も含めて、パートナーに正確に説明できるか。そして、もう説明してあるか」です。

この問いは定義の問題を迂回できます。共有された定義を必要としないからです。隠すという判断は、誰かに責められる前に、自分の行動について自分が出した信号だからです。

シャーリー・グラスの「壁と窓」は、同じことを逆から見たものです。親密な関係にはその周りに壁があり、内側を見るための窓がある。浮気は、外の誰かに向かって窓が開き、内側に壁が立つこと。修復は構造としては単純で、実行は難しい。窓を閉じて、壁を開ける。その人に言っていたことを、パートナーに言う。

単独では決定打にならない補助的な兆候が三つ。頭の中でパートナーをその人と比べて分の悪いほうに置くこと、報告したいことをその人のために取っておくこと、パートナーが同じ部屋にいるときスマホの扱いが変わること。

起きていると思ったとき

エスター・ペレルの観察は、人が探しているのはより良い相手であるより自分自身のある状態であることが多い、というものです。家にいる人の欠点の話ではないことが多く、これは言い訳ではなく診断として使うものです。止まっているものは性的な接触とは限りません。セックスレスの項と同じで、先に動くのはたいてい会話のほうです。

最初にやりたくなる手が、いちばんうまくいきません。証拠を集めて突きつけることです。出てくるのは防御で、会話は容疑が証明されるかどうかの話になり、二人が何を必要としているかの話にはなりません。

もう少しうまくいくのは、小さくて難しいほうです。罪状ではなく影響を話すこと ——「しばらく、二番目に知らされる人になっている感じがしている」—— そのうえで、戻してほしいものを直接頼むこと。片方は会話になり、もう片方は裁判になります。頼み方そのものは相手に求めているものの項で扱っています。

すでに起きてしまった場合、回復について一貫して言われていることがあります。小出しにせず一度で話すこと、外の関係を細らせるのではなく終わらせること、傷ついた側が毎回要求しなくても透明でいる期間を長く取ること。そして「もう終わった」と言った時点から数え始めるのは、言った側だけです。

出典

  • · Glass, S. P. (2003). Not 'Just Friends' — on the walls-and-windows model of affair prevention.
  • · Perel, E. (2017). The State of Affairs: Rethinking Infidelity.
  • · Thompson, A. E., O'Sullivan, L. F. (2016). Drawing the line: the development of a comprehensive assessment of infidelity judgments. Journal of Sex Research.
  • · Blow, A. J., Hartnett, K. (2005). Infidelity in committed relationships: a substantive review. Journal of Marital and Family Therapy.
  • · 民法770条1項1号(不貞な行為)、および不貞行為を配偶者以外との性的関係と解する判例上の理解。

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