プラトニックな関係
恋愛も性も含まない親密な関係。日本語の「プラトニック」が英語の platonic とずれる理由、友情結婚、線の引き方。
関係の科学
プラトニックな関係とは、恋愛も性的な関係も含まない親密な関係のことです。ただし先に断っておくことがあります。日本語で「プラトニック」と言うとき、多くの場合それは「恋愛感情はあるが性的な関係を持たない」という意味です。英語の platonic が指すのは恋愛感情そのものがない親密さで、範囲が違います。同じ語で別のものを指しているので、話が噛み合わないことが起きます。
語源はプラトンですが、プラトンが書いたのは個人から理念へ上っていく愛のことで、今この語で呼ばれているものとは別です。現代の用法は引き算でできています。親密な関係が持ちうるもの全部から、恋愛と性の二つを引いたもの。欠けているものの名前で呼ばれている、というのがこの語の扱いにくさの出どころです。
「友情」と「恋愛」の間に言葉がない
日本語でこの語が恋愛込みの意味に流れたのは、偶然ではないと思われます。日本語には「友情」と「恋愛」の中間を名指す語がほとんどありません。
英語圏には queerplatonic、platonic life partner のように、恋愛ではないが友情という語では軽すぎる関係を指す言い方がいくつかあります。どれもこの二十年ほどのあいだにアロマンティック・アセクシュアルのコミュニティから出てきた新語で、日本語に対応する通行語はありません。「親友」はありますが、住居と家計と将来を共有する相手を指すには足りない。「相棒」も「パートナー」も、それぞれ別の方向に寄っています。
語がないと起きることは単純です。説明するたびに「それは恋愛ではないのか」と確認されることになります。 関係の側の問題ではなく、語彙の側の問題です。恋愛を引いた親密さを指す需要を「プラトニック」が引き受けなかったぶん、その席が空いたままになっている、という見方もできます。
友情は何時間でできるのか
プラトニックな関係のほとんどは、特別な名前のつかない友人関係です。研究からわかっていることを二つ。
友情には、多くの人が見積もっているよりはるかに多くの時間がかかります。 ジェフリー・ホールの研究では、知人から「気軽な友人」になるまでに約50時間、「友人」まで約90時間、「親しい友人」までは200時間を超えるという推定が出ています。大人になって友人が減るのは、欲しくなくなるからではなく、この時間が確保できなくなるからです。
健康への影響は、おまけの話ではありません。 ホルト=ランスタッドらのメタ分析では、社会的つながりの多さが生存率の優位と結びついており、その効果量は確立された医学的リスク要因と比較できる大きさでした。ただしこの分析が集めたのは主に欧米の集団です。親族が同じ機能の一部を担ってきた社会で効果量がそのまま再現されるかは別の検証が必要で、日本のデータとして読むには留保が要ります。結論の向きは動きません。友情は余剰ではなく構造材です。
友情結婚とセックスレスは別のもの
日本語には、英語圏に対応語がない言い方が一つあります。友情結婚 —— 恋愛感情や性的関係を前提とせず、生活の共同と安定のために結婚する形で、仲介するサービスも実際に存在します。アセクシュアルの人、同性に惹かれつつ家庭を持ちたい人、恋愛の枠は要らないが一人では生活を組みたくない人が使っています。
法律上、特別な扱いはありません。婚姻届に恋愛の有無を書く欄はなく、誰も確認に来ません。事実婚を選ぶ場合も同じで、制度の側は二人が何を感じているかに関心を持っていません。
区別しておきたいのは[セックスレス](/base/sexless-marriage)です。 こちらは性的だった関係がそうでなくなった状態で、たいていどちらか一方はそれを選んでいません。友情結婚は最初に結んだ合意です。外から見ればどちらも「性的関係のない結婚」ですが、苦痛が生じるかどうかはここで分かれます。同じ語で両方を呼ぶと、選んだ人の関係が問題として扱われ、選んでいない人の苦痛が軽く見られます。
線はどこにあるのか
「この関係はまだプラトニックなのか」という問いで来る人が多いのですが、この線は惹かれているかどうかでは引けません。 惹かれる感覚はありふれていて、それ自体では関係の性質を変えません。
もう少し使える判定があります。隠しているかどうか。 自分のパートナーに正確には説明できない友人関係は、呼び名が何であれすでに移動しています。一対一の関係で約束されているのは行為の一覧より先に、情報を隠さないことだからです。
逆向きも起こります。恋愛関係だったものが恋愛ではなくなり、それでも一緒にいる形を選び直す組み合わせもある。関係が動いたことは、どちらかの失敗版になったことではありません。 問題は何を約束し直したかで、どのカテゴリに収まるかは後から付ける名前です。関係が動いたときに隠す方へ寄るか確認する方へ寄るかには、愛着の傾向がかなり効きます。そこは愛着スタイル診断で見える部分です。
この語が取り違えられる点
- 下位のカテゴリではありません。 「ただの友達」という言い方は、プラトニックな関係を恋愛関係の下に置いています。研究はその順位を支持していません。親しい友情は、恋愛関係と同じかそれ以上に幸福度や寿命を予測します。
- 親密さがないという意味でもありません。 感情的な親密さ、身体的な親しさ、相手を深く知っていること —— どれもプラトニックな関係で成立します。ないのは恋愛と性の二つだけです。
- 永続が条件でもありません。 関係は両方向に動きます。変わった関係は、もう一方の不完全な版だったわけではありません。
- そして日本語では、この語だけでは恋愛感情の有無が伝わりません。 相手と「プラトニックでいよう」と合意したつもりでも、片方は恋愛ありで性なし、もう片方は恋愛なしを思っていることがあります。使うなら、どちらの意味で言っているかを一度言葉にしたほうが早い。語を共有していることと、意味を共有していることは別です。
出典
- · Hall, J. A. (2019). How many hours does it take to make a friend? Journal of Social and Personal Relationships.
- · Holt-Lunstad, J., Smith, T. B., Layton, J. B. (2010). Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review. PLoS Medicine.
- · DePaulo, B. (2006). Singled Out.
- · Plato, Symposium — the source of the term, and not what the term now means.