イライラ(易怒性)
いくつもの診断に共通する症状なので、これだけでは何も絞れません。うつが見落とされる経路と、日本語で報告されにくい理由。
ウェルビーイングの科学
イライラとは、ふだんなら流せる程度のことで不快や怒りが立ち上がるようになっている状態です。列の進み方、二度目の同じ質問、人の咀嚼音。臨床ではこれは症状で、性格でも診断名でもありません。そして患者がもっとも頻繁に訴える症状のひとつです。
同時に、もっとも情報量の少ない症状のひとつでもあります。イライラは互いにほとんど共通点のない診断群に、横断的に項目として入っています。つまり自分の中にそれを見つけても、絞り込めるものがほとんどない。このページが扱うのはそこです。短気の直し方ではなく、この症状が何のサインで、なぜ性格の問題として読み替えられやすく、そして日本語ではなぜ症状として報告されにくいのか。
なぜ、ほとんど何も指していないのか
ヴィダル=リバスらは分類を一通り数えました。イライラは、児童・青年のうつ病エピソード、全般不安症、心的外傷後ストレス症、躁病および軽躁病エピソード、反抗挑発症、重篤気分調節症、間欠爆発症、月経前不快気分障害、境界性パーソナリティ症、そしていくつかの物質の離脱状態の診断基準や関連特徴の中に入っています。彼らのレビューはこれを、児童精神科でもっとも多い訴えのひとつであり、もっとも規定の甘いもののひとつだと書いています。
十を超える診断に属している症状は、大きいけれども向きを持たない信号です。 直感は逆に働きます。これだけ不快なものには何か特定の意味があるはずだ、と。ありません。情報を運んでいるのはイライラそのものではなく、それと一緒に来たものと、いつ始まったかのほうです。
そして精神科の一覧より手前に、もっと短くて安い一覧があります。睡眠、痛み、食事の間隔、カフェイン、酒の翌日、新しく始めた薬、動き出した甲状腺。この経路はすでに別の場所に全部書いてあるので、ここでは繰り返しません。これは短気なのか、それとも余力が切れているのかを扱った記事が生理の側のチェックリストを通しで歩いています。最初に片づけるべきなのはこちらで、理由は単純に、二週間で決着がつくのはここだけだからです。
これはうつであり、同時に性格として読まれる
ファヴァらは米国の全国併存疾患調査の再調査データに、うつ病エピソードにイライラや怒りがどれくらい伴うかを問いました。答えは半分近く。しかもそれが伴っていた側は軽い方ではなく、期間が長く、併存症も衝動性も生活への支障も多い側でした。イライラを伴ううつは、機嫌の悪く見える穏やかな亜型ではありません。
マーティンらは、それが統計の表面に何をするかを示しました。従来の症状リストで数えると、男性がうつ病の基準を満たす率は女性のおよそ半分です。怒り、イライラ、物質使用、危険な行動も数に入れたリストで数えると、その差は消えます。どの症状を数えるかが、誰が見つかるかを決めているのであって、いちばん落とされやすい症状がこれです。
年齢を変えると、別の理由で同じことが起きます。十代ではイライラとして出るのがむしろ普通で、しかもそれを受け取る説明があらかじめ用意されています。思春期です。家で手に負えなくなった十六歳には年齢についての一言が返ってきて、その下にある平坦さと変わった眠り方は数か月後に気づかれるか、気づかれません。
つまりイライラは、うつのうち最も性格の問題として整理されやすい現れ方です。 医者にも家族にも、そしてもっとも確実に本人によって。本人は気分の問題ではなく気の短さの問題として語ります。内側からはそう感じられるからです。見分けの手がかりは一緒に来たもののほうにあります。形の変わった睡眠、効いていたことから抜けていく興味、熱の下にある平坦さ。それは質問票ではなく医療の側の話です。そしてイライラの隣に「生きていたくない」が座っているなら、それは自己診断の対象ではありません。いのちの電話は 0570-783-556、#いのちSOS は 0120-061-338 で、急を要するときは 119 を使ってかまいません。
診断基準の中に書かれている非対称
この話の下には、知っておく価値のある条文上の仕掛けがひとつあります。
うつ病エピソードの基準では、最初の条件は抑うつ気分または興味の喪失です。児童と青年については、抑うつ気分の代わりに易怒的な気分でよいとされています。成人についてはそうなっていません。明らかに怒りやすくなっていて、しかし自分で名づけられるような悲しさは無いという成人は、イライラだけではその条件を満たしません。
この非対称は、うつの仕組みについての事実ではなく、マニュアルの書かれ方についての事実です。 低い気分を低い気分として報告できない子どもへの妥当な配慮であり、成人側にそれが何をもたらすかはほとんど議論されませんでした。結果として同じ症状が、十五歳では証拠で、二十五歳では愚痴になります。
子ども側はその逆の問題を抱えてきました。注目はされるが整理されないという問題です。1990年代から2000年代にかけて、米国では慢性的に易怒的な子どもに双極症の診断がつく割合が増え続け、ライベンラフトの重症気分調節不全をめぐる研究は、はっきりしたエピソードを伴わない慢性の易怒性は躁ではないと論じました。DSM-5 で重篤気分調節症が加わったのは、おおむねその修正としてです。ストリンガリスの評価は、前よりは良くなったが中心の問いは開いたままだというもので、その問いは「慢性の易怒性は障害なのか、次元なのか、それとも分類を拒む症状なのか」です。日本語圏ではこの新しい診断名はほとんど流通していません。
日本語で、この症状はどう呼ばれて落ちていくか
ここが日本語版に固有の節です。英語の irritability は日常語と臨床語を一語で兼ねていますが、日本語ではそれが二つに割れています。
一方にイライラがあります。渋滞にも、読み込みの遅いページにも、他人の歩く速度にも使う、おそらく最も日常的な感情語のひとつです。軽い。軽いので、診察室で「最近イライラします」と言ったとき、言った本人にとってもその一言は軽いままです。もう一方に易怒性という医学語があり、これは患者が自分について使う語ではありません。そして両者の間には何もありません。 症状として報告されるための中くらいの重さの言い方が、日本語には用意されていない。
落ちたものを受け取る既製の説明は、逆に三つも用意されています。更年期、思春期、そして疲れているだけ。どれも間違いとは限りません。どれも正しいことがあります。ただし三つとも、医療につながらない方向に終わる説明です。とくに更年期は、四十代以降の女性のイライラをほとんど自動的に吸収します。前の節で書いたうつの見落としが、日本語ではこの三語を経由して起きます。
語彙の問題は、測定の問題と同じ形をしています。トゥーヒーとディジュゼッペは、この領域の尺度が易怒性と怒りと敵意と攻撃性をほぼ日常的に混ぜていることを示しました。易怒性は「どれだけ小さなことで立つか」、怒りは「どれだけ大きくなるか」、攻撃性は「何をしたか」で、三つは別々に動きます。 日本語の側でも同じ取りこぼしが起きています。自分のイライラを語るときに出てくるのは「カッとなった」「ムカついた」「当たってしまった」で、どれも出来事を指す語です。閾値を指す語が日常語の側にない。だから「去年と比べてどれだけ小さなことで立つようになったか」という、いちばん情報のある問いが言葉にならないまま終わります。
受診の側は短く書けます。血液検査が必要な部分はかかりつけの内科で足りますし、気分そのものを診てもらうなら心療内科と精神科のどちらでもよく、違いは診療科の名前ほど大きくありません。どこから話すか決まっていない段階なら、自治体の精神保健福祉センターが相談先として開いています。
イライラの測評は「どれくらい怒りやすいか」ではなく「最近の変化がどこから来たか」を見るようにできています。怒りが二番目に来るとき、その下に何があるのかという別の議論は怒りは二次感情かが全部持っています。そして損害はたいてい家の中に出ます。自制は結果の重い順に使われて、家にいる人は列の最後だからです。戻すための作業は対立と修復のほうにあります。
ふだんより怒りやすいこと自体は、ごくありふれていて、何かの診断ではありません。絵が変わるのは期間と同伴者です。数日ではなく数週間、そして何かが一緒に動いていること。最後に、どんな点数より優先する一行があります。近くにいる人があなたの機嫌に合わせて自分の振る舞いを調整しはじめている、話す前に顔色を見ている、という段階まで来ているなら、それは自己診断でどうにかなる範囲を越えています。
出典
- · Fava, M., Hwang, I., Rush, A. J., Sampson, N., Walters, E. E., Kessler, R. C. (2010). The importance of irritability as a symptom of major depressive disorder: results from the National Comorbidity Survey Replication. Molecular Psychiatry.
- · Vidal-Ribas, P., Brotman, M. A., Valdivieso, I., Leibenluft, E., Stringaris, A. (2016). The status of irritability in psychiatry: a conceptual and quantitative review. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry.
- · Stringaris, A. (2011). Irritability in children and adolescents: a challenge for DSM-5. European Child and Adolescent Psychiatry.
- · Leibenluft, E. (2011). Severe mood dysregulation, irritability, and the diagnostic boundaries of bipolar disorder in youths. American Journal of Psychiatry.
- · Martin, L. A., Neighbors, H. W., Griffith, D. M. (2013). The experience of symptoms of depression in men versus women: analysis of the National Comorbidity Survey Replication. JAMA Psychiatry.
- · Toohey, M. J., DiGiuseppe, R. (2017). Defining and measuring irritability: construct clarification and differentiation. Clinical Psychology Review.
- · Holtzman, S., O'Connor, B. P., Barata, P. C., Stewart, D. E. (2015). The Brief Irritability Test (BITe): a measure of irritability for use among men and women. Assessment.