成長マインドセット
ドゥエックが実際に測ったもの、大規模な追試で効果がどこまで縮んだか、そして「マインドセット診断」が読者の聞きたいことに答えられない理由。
性格の科学
成長マインドセットとは、能力は伸ばせるものだという信念です。固定マインドセットは、能力は持っているものだという信念です。キャロル・ドゥエックが1990年代にこの対を名づけ、2006年の本が世界で数百万部売れ、日本語版は2016年に草思社から出ました。いまでは企業研修と人材開発の定番語彙になっています。
そのあとで、効果は二度、大規模に検証されました。知りたかった人たちによってです。知見は生き残りました。そして掲示物が含意しているより、はるかに小さく戻ってきました —— 研修資料が引用しているその研究が支持していない大きさまで、小さく。
正直な立場は「否定された」でもないし、まして「もっと強く信じよう」でもありません。どちらよりも狭くて役に立ちます。マインドセットは一つの領域についての信念で、測定でき、動き、少しだけ予測し、それを土台にした介入は特定の人たちを特定の小ささだけ助けます。
このページは私たちの成長マインドセット診断の前か後に読むためのものです。あの診断に何が言えて何が言えないかは、以下の段落からそのまま出てきます。
実際に測られたもの
元の尺度は短くて素っ気ないものです。知能は一定量あって、本当は変えられないといった文に同意するかどうかを聞きます。同意が固定マインドセット、不同意が成長マインドセット。器具はそれだけです。
ここから二つのことが出てきて、両方とも失われます。
能力ではなく、信念を測っています。 成長マインドセットの得点は、あなたがどれだけ速く学ぶかについて何も言っていません。どれだけ速く学ぶと自分が思っているかを言っています。別の量であり、質問紙に載っているのは片方だけです。
領域ごとです。 ブラックウェルらが測ったのは知能についての信念で、対象は思春期の生徒、期間は進学の移行期でした。数学については成長マインドセットを、自分の短気や歌声や時間を守る能力については固い固定マインドセットを持っている、という人は普通にいます。得点を一般的なパーソナリティの次元 —— 人の種類 —— として扱うのが、この文献全体で最もよくある誤読で、心理的本質主義が記述している誤りそのものです。
日本語の「マインドセット」は、元の語より広い
ここが日本語版で一節を要する部分です。訳語が二系統あって、指しているものの範囲が違います。
研究の側の原語は implicit theories of intelligence で、日本の教育心理学ではこれを「暗黙の知能観」と訳してきました。知能についての、本人が明示的には述べない理論。範囲が狭く、何が測られたかが語の中に書いてあります。
市場の側で流通しているのはカタカナの「マインドセット」で、こちらは書名から来ています。そして日本語の「マインドセット」は、能力についての信念ではなく、仕事に対する姿勢や心構え一般を指す語として定着しました。研修資料の「成長マインドセットを持つ人材」は、たいてい前向きで、挑戦を厭わず、失敗を引きずらない人のことです。
この差は言葉遣いの好みではありません。範囲が広がった分だけ、反証できなくなっています。 「知能は変えられると思うか」は答えが分かれる問いで、だから研究になりました。「前向きな姿勢を持っているか」は研修の場で分かれません。上の節の研究が支持しているのは狭いほうの主張で、日本語の研修で語られているのは広いほうです。 そして広いほうを裏づける研究として、狭いほうの数字が引用されています。
もう一つ、順番の話。日本語では「マインドセット」が先に一般語になり、あとから「成長」と「固定」が乗りました。だから日本語の読者は、成長マインドセットを人の種類として受け取りがちです ——「あの人は成長マインドセットの人だから」。元の構成概念は、領域ごとの、動く信念でした。
追試で何が起きたか
診断を売っているページが飛ばしたくなる部分です。飛ばしません。
相関は小さい。 シスクらは273件の研究、のべ36万人以上の生徒をメタ分析し、マインドセットと学業成績の平均的な関連は r = 0.10 程度だと報告しました。実在する関連で、そして弱い関連です —— 成績の分散のおよそ1パーセント。比較として、以前の成績は後の成績を数倍強く予測します。
介入は、一部の層に、少しだけ効く。 全米学習マインドセット研究は、65校の9年生1万2千人以上を、短いオンライン演習に無作為割付しました。イェーガーらが見つけたのは、成績上位層には検出可能な効果が無く、下位層に小さな効果があるということ、そしてその効果は周囲の規範がそのメッセージを支持している学校に集中するということでした。評定平均で十分の一点ほどの大きさです。結果は残りました。著者自身の枠組みで言えば、安価な介入による限定的な効果であって、変容ではありません。
全研究の平均はゼロの近くです。 マクナマラとバーゴインの2023年のメタ分析は、研究の質、出版バイアス、事前登録を考慮に入れると、介入の学業成績への全体効果は非常に小さく、ゼロと確実には区別できないと報告しています。はっきりした信号は、やはり不利な層と低学力層に出ます。
つまり知見は狭くなりました。消えてはいません。消えたのは、掲示物が普通の生徒の進路を変えるという版のほうです。
そしてもう一つ、日本語で読む人が知っておくべきことがあります。ここに挙げた標本はすべて米国の学校です。 学校の規範、評定の仕組み、「努力」という語に与えられている道徳的な重みは、日本とは違います。イェーガーの結果が「周囲の規範が支持している場所で効く」という形をしている以上、場所を替えたときに同じ大きさで出るかどうかは、この文献が答えていない問いです。日本の学校や職場で同規模の追試が行われた例を私たちは知りません。
診断が、読者の聞きたいことに答えられない理由
人がマインドセット診断を受けるのは、自分が変われる種類の人間かどうかを知りたいからです。器具はそれに答えられません。理由は三つあり、そこへ誘導するページの上に書いておく価値があります。
項目が透けています。 知能は本当は変えられないという文を読んで、どちらが「良い」答えか分からない人はほとんどいません。だからこの尺度は、なりたい自分として答えるのが異常に簡単です。これは回答のくせで扱う問題の、純度の高い形です。概念が有名になるにつれて得点は上へ流れていきますが、それは人ではなく文化の性質です。
自己申告と、困難のもとでの行動は別れます。 能力は変えられると言うのは安い。理論が本当に扱っている行動 —— 最初の失敗のあとも問題に留まる、難しいほうの課題を選ぶ、聞きたくないフィードバックを求めに行く —— は、質問紙が採取しているものではありません。採取されているのは、標語への同意です。
一つの数字が領域を隠します。 中くらいの総合点は、全領域で中くらいなのかもしれないし、仕事については成長で人間関係については固定なのかもしれません。後者のほうがずっと多く、ずっと使えて、そして平均はそれを消します。
私たちの成長マインドセット診断にも、透明性の問題を含めて他と同じ限界があります。そこへ送り出すページに、それは書いておきます。この診断が本当に役に立つのは領域の問いのほうです —— 自分の人生のどの部分を、固定したものとして語っているか。 見出しの点数ではなく、領域ごとの内訳を読んでください。
縮んだあとに残るもの
縮小を通り抜けて無傷で残るものが三つあります。
固定した信念は実在し、そして局所的です。 人が実際に従って生きている文は、「知能は固定されている」ではありません。「私は数字に弱い」「私はもめごとが苦手」「私は昔から眠れない」です。どれも特定の領域についての固定マインドセットの主張で、どれも検証可能で、そのほとんどは一度も検証されていません。
過程を褒めることは、特性を褒めることに勝ります。 この部分の文献は、介入研究より古く丈夫です。子どもに「頭がいいね」と言うのと「解き方を丁寧に追ったね」と言うのとでは、次の失敗への反応が測定可能なほど違います。人事評価の面談でも同じです。
介入は普遍ではなく、狙い撃ちです。 効果は、いま苦労していて、その苦労を天井の証拠だと思っている人に集中します。それが自分でないなら、演習はたいして何もしないでしょうし、そうでないかのように書くページは何かを売っています。
いま挙げた文のほとんどは仕事についてのもので、領域の問いはそこで具体的になります。働き方のスタイルとキャリア価値観の結果は、マインドセットの点数より具体的な信念を見つける場所です。変化一般をどう思うかではなく、実際に何をして何を望むかを聞いているからです。
やる価値があるのは、診断を受けてラベルを引き受けることではありません。自分について言っている「私はどうせ〜ない」という文を一つ選んで、四週間だけ、記述ではなく仮説として扱うこと。 機構はそれだけで、質問紙に同意する必要はありません。そして選んだ文が、能力ではなく気力が消えていることについてのものだったなら、関係があるのは燃え尽き(バーンアウト)のほうで、このページではありません。
出典
- · Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. Random House.
- · Blackwell, L. S., Trzesniewski, K. H., Dweck, C. S. (2007). Implicit theories of intelligence predict achievement across an adolescent transition: A longitudinal study and an intervention. Child Development, 78(1), 246–263.
- · Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., Macnamara, B. N. (2018). To what extent and under which circumstances are growth mind-sets important to academic achievement? Two meta-analyses. Psychological Science, 29(4), 549–571.
- · Yeager, D. S., et al. (2019). A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement. Nature, 573, 364–369.
- · Macnamara, B. N., Burgoyne, A. P. (2023). Do growth mindset interventions impact students' academic achievement? A systematic review and meta-analysis with recommendations for best practices. Psychological Bulletin, 149(3–4), 133–173.
- · ドゥエック, C. S. (2016). マインドセット —— 「やればできる!」の研究 (今西康子 訳). 草思社.