年の差婚
年の差そのものが何かを予測するのか。研究の結果、日本語と制度が年齢をどう扱っているか、そして年数より効く問いは何か。
関係の科学
年の差婚とは、一般に十歳前後かそれ以上の年齢差がある結婚を指します。ただし、どこからが年の差なのかに合意はありません。
日本語にはここで使える単位が一つあります。「ひと回り」 —— 干支が一周する十二年です。ひと回り上、ふた回り上という言い方は年数を数えているのではなく区切りを数えていて、日本語話者が実際に閾値として使っているのはこちらです。
先に結論を書いておきます。合意した成人どうしの関係が、年齢差のある一線を越えて別の種類のものに変わる、ということはありません。 差の大きさとともに変わるのは、具体的な問いがいくつ増えるかです。
日本語は、年齢を文法に埋め込んでいます
日本語では、年齢差が言語そのものに現れます。
学年が一つ違えば先輩と後輩になり、その関係は卒業しても残ります。敬語をどちらが使うか、名前をどう呼ぶか —— 出会った時点の年齢差が、話し方の初期設定を決めてしまう。
役割が最初から決まっているぶん摩擦が少ない、とも言えます。一方で、関係の中の力関係が、二人の合意ではなく文法によって先に配られてしまうとも言える。年の差のあるカップルで「意見が言いにくい」という詰まり方が出るとき、原因が性格ではなく話し方の初期設定にあることは珍しくありません。
どちらが敬語をやめるかを一度も話し合っていない関係は、年齢差の話も一度もしていないことが多い。 小さく見えて、後から効いてくる場所です。
姉さん女房 — 評価の向きが一致しない
年上の女性と年下の男性という組み合わせのほうが余計に言われる —— 英語圏ではそう説明され、実際その傾向はあります。
ところが日本語には逆向きのことわざがあります。「姉さん女房は金の草鞋を履いてでも探せ」 —— 履きつぶれない草鞋で探し回ってでも見つけろ、という意味で、明確に推奨しています。日本語は、この組み合わせを名指しする語(姉さん女房)と、それを勧める句の両方を持っている。 英語にはどちらもありません。
とはいえ、ことわざが実生活の視線を打ち消すわけではなく、実際には両方が同時に起きています。評価が一方向だと決めてかかると、日本語話者の実感とずれるということです。
数のうえでも動いています。人口動態統計では夫が年上の組が依然として多数ですが、妻が年上の組は長期的に増え続け、近年はおおむね四組に一組。同い年の組も増えています。
研究がわかっていること — 日本の標本ではありません
初期の満足度は高く、下がるのが速い。 リーとマキニッシュがオーストラリアの世帯パネルを分析したところ、年齢差の大きい夫婦は当初、同年代の夫婦より高い満足度を報告していました。そしてその後の六年から十年で下がり方が急で、同年代の水準を下回るところまで行く。効果が最も強かったのは、夫がかなり年上の組でした。
解消率は差とともに上がります。 複数のデータで一貫していますが、差が大きくなるまで効果は小さく、珍しい組み合わせに伴う要因と交絡しています。
承認されにくさは、測れるコストです。 レムラーとアグニューの研究では、周囲から承認されていない感覚がコミットメントの低下を予測しました。出自をまたぐ関係と同じ仕組みで、負荷が関係の外から来る点も同じです。
一つ、直感に反する所見。 ドレファールのデンマークの死亡データの分析では、年下の妻を持つ男性は長生きしていました。そして重要なのはこちらで、年下の夫を持つ女性には同じ利得がなく、同年代の男性と組んだ女性より結果が悪い。この非対称は説明がついていません。この分野の研究が見た目より交絡している、という警告として読むのが妥当です。
いずれも豪州・デンマーク・米国のデータで、日本で同じ形が出るかどうかは別の問題です。
年数より効く問い — 人生の段階
効いているのは年数ではなく、二人がいまどの段階にいるかです。
38歳と50歳のひと回りと、22歳と34歳のひと回りは、同じ十二年でも別の状況です。後者には、仕事も住む場所も子どもを持つかも決まっていない人と、三つとも決め終えた人がいる。問題を作っているのはこの非対称で、算数ではありません。
早いうちに話す価値がある項目は具体的です。
- 子ども。 持つかどうか、いつか、どちらかがもう育て終えているか。揉め方として最も多い
- 仕事の時期。 積み上げている側と、固めている、あるいは畳み始めている側。転勤や転職でどちらの都合が通るのか。何を大事に働くかがずれていれば、年齢差と無関係に揉めます
- 退職とお金。 十五年差なら、片方が退職していて片方が働いている期間が十年以上あります
- 健康と介護。 気まずい話ほど、始まる前のほうが話しやすい
- 友人関係。 相手の友人と夜を過ごす気があるか
どれも答えの出ない問いではありません。ただ、初期には見えないだけです。 データが記録している「最初の満足度の高さ」で走っている時期に、ちょうど隠れています。
制度が年の差を金額に変える場所
日本では、年齢差が制度を通じて金額になる場所がいくつかあります。
加給年金。 厚生年金には、生計を維持している配偶者が65歳未満であるあいだ加算される仕組みがあります。年下の配偶者がいる期間そのものが給付額の差になる設計です。
遺族厚生年金。 夫を亡くした妻が30歳未満で子がいない場合、給付は5年間の有期になります。年齢差が大きい組ほど、この条件に当たりやすい。
配偶者居住権。 2020年から使える制度で、住んでいた家の所有権が子に渡っても配偶者が住み続ける権利を確保できます。年齢の離れた再婚で、前の関係の子が相続人になる場合に効きます。
年の差のある関係でお金の話が必要になる時期は、たいてい制度のほうが先に決めています。
力関係、そして本当の懸念がある場所
年の差への懸念のうち、筋の通る部分は年齢の話ではありません。二人が対等な足場に立っているかどうかです。お金、社会的な立場、経験、そして出ていく能力。
大きな年齢差は、この非対称と同時に現れることが多いだけで、それを作り出しているわけではありません。25歳と45歳で出会い、双方に独立した収入と仕事と交友関係がある二人は、片方が住居と財布と人間関係を握っている二人とは別の状況にいます。後者は年齢差があろうとなかろうと懸念の対象です。
片方がとても若い場合 —— 二十代前半、最初の本格的な関係、経済的に依存している —— この非対称は双方が見ておく価値があります。気づける位置にいるのは、たいてい年上のほうです。
最後に。年の差のある関係が決まった順番に乗ると、段の時計が二人で違う速さで動きます。同じ段に同じ年に立っていても、そこに何年いられるかの見積もりが違う。揃えるべきなのは年齢ではなく、その見積もりです。
出典
- · Lehmiller, J. J., Agnew, C. R. (2006). Marginalized relationships: the impact of social disapproval on romantic relationship commitment. PSPB.
- · Drefahl, S. (2010). How does the age gap between partners affect their survival? Demography.
- · Lee, W., McKinnish, T. (2018). The marital satisfaction of differently aged couples. Journal of Population Economics.
- · Conroy-Beam, D., Buss, D. M. (2019). Why is age so important in human mating? Evolutionary Behavioral Sciences.