「異常なし」は効きます。これはあまり言われないことで、そしてこのループが説得では動かない理由でもあります。深刻なものはないと医師から告げられた直後の安堵は、本物で、即座で、完全です。
そのあと、抜けていきます。
1997年に英国の総合病院で、ほとんど誰もやっていなかった当たり前のことをした研究があります。安心させたあとも測り続けた、というだけのことです。胃内視鏡の予定が入っていた60人を、検査前、担当医が深刻なものはないと伝えた直後、そして24時間後、1週間後、1か月後、1年後に測りました。告げられた瞬間、心配と病気だという確信は全員で大きく下がりました。ところが検査前に健康不安が高かった群では、その両方が24時間のうちに戻ってきていて、1年後には出発点と同じ高さに座っていました。健康不安が中程度だった人たちは、もらった安心をそのまま保っていました。
同じ医師、同じ言葉、同じきれいな画像。
60人は小さな研究で、大きくある必要は一度もありませんでした。わかったのは安心がどれだけ効くかではなく、どれだけ持つかだからです。
24時間
異常なしの内視鏡結果が健康不安の高い群で持ちこたえた長さ
19.8%
総合病院の内科系外来で調べられた28,991人のうち強い健康不安があった割合
61%
病気不安症の人のうち受診を繰り返す時期と避ける時期を行き来する割合
d = 1.01
健康不安向けに調整した認知行動療法の21件の比較での効果量
その前に。健康不安のある人も、実際に病気になります
これは先に、ぼかさずに書いておかなければなりません。この先の議論は、症状は思い込みだという主張として読み違えられうるもので、その読みは間違っているうえに危険です。
2023年に JAMA Psychiatry に出たスウェーデンの全国コホートは、心気症の診断を受けた4,129人と、条件を合わせた41,290人を追いかけました。死亡率は心気症群のほうが高く出ています。低くではありません。全死因のハザード比1.69。自然死因で1.60。死亡時の平均年齢は70歳と75.1歳。自殺のハザード比は4.14で、この数字ひとつで、これが軽い悩みだとか笑い話だという扱いは終わりにするべきです。
病気を恐れることが病気を防いだことは一度もなく、そして検査の代わりにもなりません。これは両方向にそうです。この領域で最も大きい治療試験では、追跡期間中に9人が亡くなっていて、全員が元からあった疾患によるもので、そのうち6人は通常ケア群でした。
「心気症」という古い言葉
心気症は hypochondriasis の古い訳語で、元の英語が持っていた侮蔑の色をそのまま受け継いでいます。人を笑うときに使われてきた言葉で、臨床の名前としてはとうに退きました。DSM-5 の日本語訳では病気不安症です。この記事では以降、心気症という語は研究の引用のためだけに残します。
指している中身のほうは、演技ではありません。注目を集めるための振る舞いでもなく、弱さでもなく、一般的な考えすぎとも別のものです。
説明はもっと平凡です。健康不安は、まったく普通の二つの働きに現れるパターンです。体のなかで注意がどこに着地するか、そしてそれを頭が何と結論するか。それに、答えを決着させるために後からやることが加わります。Tyrer らは英国の病院の循環器、呼吸器、神経、内分泌、消化器の外来に来ていた28,991人を調べ、19.8%に強い健康不安を見つけました。神経内科では24.7%。珍しい変わり者の話ではなく、待合室の五人に一人です。
そして、有病率よりこちらのほうが大事なのですが、これは臨床家が見る不安のパターンのなかで、最も治療に反応するもののひとつです。
安心には半減期があり、その半減期は短くなる
仕組みを書きます。直感と逆なので、ゆっくり読む価値があります。
強化しているのは安堵であって、情報ではありません。体についての問いが閉じるとき、検索でも触診でも信頼している誰かの返事でも、不安は下がります。そして神経系が記録するのはその下がり幅です。下がり幅から学ばれる内容は、これは決着を必要とする種類の問いだった、ということです。それが平常時の警報レベルを上げます。すると感覚が増えます。監視下にある体はうるさい体だからです。そして次の問いが、前より早く来ます。
だから間隔が縮みます。はじめのうち、はっきりした答えは数週間分になります。しばらくすると午後いっぱい分になります。最後には同じ会話のなかで安心を更新しなければならなくなり、ここで多くの人が何かおかしいと気づいて、悪化していると結論します。悪化しているのではありません。強化されたループが、強化されたループのする通りのことをしています。
追いかけているものは、根っこのところで情報ではありません。確実性です。そしてこの差がそのまま、このループに自然な終点がない理由になります。検査が返すのは確率で、ゼロを返す検査はありません。不確実性への不耐性の項目がその一文の長い版です。動かす価値があるのは耐性のほうで、理由は単純に、そちらが動くからです。答えの出ない問いが答えの出る問いに変わることはありません。
受診しすぎと受診しないは、同じループです
このパターンで完全に見落とされるのは、行かない人のほうです。
DSM-5 は病気不安症を医療を求める型と医療を避ける型に分けていますが、実際の分かれ方はそこまできれいではありません。2024年に出た病気不安症のレビューが扱っている標本では、25%が求める型、14%が避ける型、そして61%が両者を行き来していました。
- 受診と回避を行き来する61% · 61%
- 受診を繰り返す25% · 25%
- 受診を避ける14% · 14%
- 受診と回避を行き来する: 61%
- 受診を繰り返す: 25%
- 受診を避ける: 14%
回避は、遅い時間割で同じ安堵を買っています。予約を取らないことは、問いを開かないという形で問いを閉じることで、不安は下がり、ループはまったく同じように強化されます。外から見ると無関心に見え、ときには騒がない立派な態度に見えます。だから何年も誰にも指摘されないまま続き、その間にもう一方の型だけが面倒な人という評判を引き受けます。キャンセルした予約と、一か月で四人目の医師は、同じ恐れが二つの戦術を走らせているものです。
だから、意志の力でこれを克服したように見える人が、実際には極を入れ替えただけということが起こります。ループの側は何も変わっていません。問いを閉じる向きだけが変わっています。
症状検索は、何の順番に並んでいるのか
検索結果は有病率の順には並んでいません。クリックされ、リンクされ、長く書かれたものの順に並んでいて、それはどれだけ怖い病気かに追随します。何人がその病気かには追随しません。Ryen White と Eric Horvitz は2009年にこれをサイバー心気症と名づけ、検索ログのなかで起きている上昇を記録しました。ありふれた訴えで始まったセッションが、まれで重い病気に移っていく動きです。頭痛から脳腫瘍が教科書的な経路。ウェブ上の文書での共起を見ると、ありふれた症状と恐ろしい説明の結びつきは、有病率から正当化できる強さをはるかに超えていました。
つまり症状検索は毎回、小さな反転をやっています。退屈な説明がほぼすべての確率を持っている分布を受け取って、まれなほうが一画面目に載っているリストを返す。誰も嘘をついていません。並び順は、訊かれたのとは別の問いに正直に答えているだけです。そしてこれはループのなかで唯一、無料で、即時で、午前四時に使えるステップで、その組み合わせがここをいちばん切りにくい輪にしています。
身近な人に安心をもらうことが、いちばん高くつく理由
本当の損害が出るのはここで、そして最も正直に書かれていないのもここです。
Brynjar Halldorsson と Paul Salkovskis は、強迫症の人と健康不安の人に、安心を求める行為は何のためなのかを聞き取りました。ひとつ際立った結果があります。健康不安の参加者は、支えを求めるという語り方をまったくしませんでした。決着を求めると語ったのです。支えは、不確かなままの時間に付き添ってもらうことです。決着は、判定を取り出すことです。戸口から見ると同じに見えて、ループに対しては逆のことをします。判定は強化子で、同席は強化子ではないからです。
そして判定が速くて確信に満ちているほど、算数は悪くなります。絶対に何でもないから、と言い切るパートナーは、問いを固く閉じます。固く閉じれば下がり幅が大きい。下がり幅が大きければ強化が大きい。強化が大きければ次の間隔が短い。人を大切に思うことと、すぐに答えてあげることは、この狭い領域に限って、対立します。
それから二次的な問題があり、関係を壊すのはこちらです。この量の判定を無限に供給できる人はいません。返事はだんだん平たくなり、遅くなり、やがて返されなくなります。それがループの内側からどう読めるか。問いからの解放ではありません。本当のことを言ってくれなくなった、何か隠されている。いちばん恐れていた結論そのものです。ループは、自分が作った疲労を材料にして、自分にとって最悪の証拠を製造します。
| 安心をどこからもらうか | 何が手に入るか | 何を支払うか |
|---|---|---|
| 検索エンジン | 数秒で、その感覚に名前がつく | 名前は怖さの順に届くので、まれなものが先に来る |
| 家族やパートナー | 信頼している声での確実性。いちばん速い種類 | 相手の忍耐。そして最後には、答える気そのもの |
| 毎回ちがう医師 | 新しい意見と、手を打ったという感覚 | 基準線。本物の変化を見せてくれる唯一のもの |
| もう一度の画像検査 | 一日、うまくいけば二日 | 新しい偶発所見。ループがより良い材料で再開する |
日本の制度は、このループにとってどういう形をしているか
日本には受診の門番がいません。紹介状なしで、どの診療科にも、どの病院にも行けます。これはフリーアクセスと呼ばれる制度上の特徴で、ゲートキーピングを敷いている英国やオランダやアイルランドとは設計そのものが違います。結果として、国民一人あたりの年間受診回数はOECDのなかで二番目に多く、2021年で11.1回。OECD平均は6.0回、米国は3.4回です。
医療へのアクセスとしては、これは誇っていい数字です。ただ、いま説明したループにとっては別の意味を持ちます。次の一回が安いということです。 順番待ちもなく、紹介状もなく、専門医に会うまでの数か月もない。三割負担で、今日、歩いて行ける。安心の半減期が短くなっていくとき、待ち時間という摩擦が他の国ではブレーキの役をしますが、ここにはその摩擦がありません。ドクターショッピングという語が日本語にこれだけ定着しているのは、語彙の問題ではなく設計の帰結です。
国の側もブレーキをかけようとしました。2022年10月から、紹介状を持たずに特定機能病院や200床以上の地域医療支援病院を受診すると、初診で7,000円以上の特別の料金がかかります。改定前は5,000円でした。ただ、これは値段によるブレーキです。値段で止まる行動は、お金に余裕のない人のほうで先に止まります。そして値段は関係を作りません。このループが必要としているのは、次の一回を高くすることではなく、次の一回をいつにするかを前もって一緒に決めてくれる相手です。
もうひとつ、日本には他の国にあまりない安定した供給源があります。年に一度の健康診断です。労働安全衛生法第66条と労働安全衛生規則第44条は、常時使用する労働者に年1回の定期健康診断を行うことを事業者の義務として定めています。受けないという選択が実質的にない検査が、毎年、境界線上の数値と再検査の案内を配る。ほとんどは何でもありません。健康不安のループにとっては、毎年一回、新しい材料が郵送で届くということです。
健康診断そのものは良い制度で、廃止したい人はどこにもいません。抜けているのは結果票の読み方を渡す人で、それは検査の側の問題ではなく受け取り方の問題です。
境界値をひとつ持って年に一度不安になる人と、それを一年かけて調べ続ける人を分けているのは、数値ではありません。
かかりつけ医という一手
この段になると出てくる助言はたいてい「調べる回数を減らす」で、指示としてはほとんど役に立ちません。量を指定していて、仕組みを指定していないからです。もっと良い版があり、そちらは構造の話です。
医師を一人にする。同じ人にする。間隔を決めておく。
経過を抱えている一人の医師との関係は、九人の他人との九回の受診にはできない二つのことをします。基準線ができるので、本物の変化を毎回ゼロから議論せずに変化として認められる。そしてもっと大きいのは、予定が組めるようになることです。何を、いつ見るかを、感覚が来た瞬間ではなく落ち着いた部屋で前もって決める。検査はなくなりません。体への反応であることをやめます。
ここでフリーアクセスの裏側が出てきます。門番がいないということは、継続性が自動では手に入らないということです。登録した診療所が自動的に継続性を作る国とは違い、かかりつけ医を持つかどうかは本人の選択になります。つまりこの記事がすすめている形は、日本では制度が用意してくれるものではなく、自分で組み立てるものです。手間はかかります。代わりに、誰と組むかを選べます。そして紹介状の仕組みは、その関係があるときには味方に回ります。
継続性については、22件の研究を集めたシステマティックレビューが、継続性が高いほど死亡率が有意に低いという結果を18件で報告しています。総合医でも専門医でもです。この結果は健康不安の集団で出たものではないので、そちらに引き伸ばすべきではありません。ただ、平凡なことはひとつ確立しています。同じ医師に診てもらうのは、好みの問題ではありません。
エビデンスが支えていること
技法の話ではなく、ここから技法を出すこともしません。関係のある事実は助言より狭く、励ましより役に立ちます。
14件のランダム化試験を集めたシステマティックレビューは、健康不安向けに調整した認知行動療法に大きな効果を見つけています。比較対象は待機リスト、通常治療、薬物療法、他の心理療法で、治療終了時点の効果量は d = 1.01、6か月後と12か月後も保たれていました。CHAMP試験は病院の内科系外来から集めた444人を5回から10回のセッションか通常ケアに割り付け、その差は8年後にもまだ測れました。心理の窓口ではなく循環器の予約で来た人たちに、総合病院のなかで届けられた治療です。
この領域でここまできれいな成績はほとんどありません。これを書く理由は励ましではありません。健康不安は、このカテゴリのなかでも特に、耐えるべき性格として扱われがちで、エビデンスの側はそれを反応するパターンだと言っているからです。
健康不安のテストは三つの部分を別々に読みます。気づくこと、意味づけること、それについて何をするか。三つは別々に動き、それぞれ別の方向を指しているからです。15問、直近1か月、他の人の答えとの比較。診断ではありませんし、誰かが病気かどうかについては何ひとつ言いません。
ループがゆるんできた最初の合図は、体についての自信ではありません。何かを感じて、特に何でもないものとして読まれて、夕方には忘れている。それです。
Sources
- Lucock, M. P., Morley, S., White, C., Peake, M. D. (1997). Responses of consecutive patients to reassurance after gastroscopy: results of self administered questionnaire survey. BMJ, 315(7108), 572-575.
- Tyrer, P., Cooper, S., Crawford, M., et al. (2011). Prevalence of health anxiety problems in medical clinics. Journal of Psychosomatic Research, 71(6), 392-394.
- Mataix-Cols, D., Isomura, K., Sidorchuk, A., et al. (2023). All-cause and cause-specific mortality among individuals with hypochondriasis. JAMA Psychiatry, 81(3), 284-291.
- Kikas, K., Werner-Seidler, A., Upton, E., Newby, J. (2024). Illness anxiety disorder: a review of the current research and future directions. Current Psychiatry Reports, 26(7), 331-339.
- Halldorsson, B., Salkovskis, P. M. (2017). Why do people with OCD and health anxiety seek reassurance excessively? Cognitive Therapy and Research, 41(4), 619-631.
- White, R. W., Horvitz, E. (2009). Cyberchondria: studies of the escalation of medical concerns in web search. ACM Transactions on Information Systems, 27(4).
- Kaneko, M., Motomura, K., Mori, H., et al. (2019). Gatekeeping function of primary care physicians under Japan's free-access system. Family Practice, 36(4), 452-459.
- Maeda, J. L. K. (2025). Examples from US policies to reduce oversupply and overutilization: lessons for the Japanese health care system. Inquiry, 62.
- 厚生労働省保険局医療課 (2022). 令和4年度診療報酬改定の概要 外来Ⅰ. 紹介状なしで受診する場合等の患者負担の見直し.
- 厚生労働省労働基準局. 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう.
- Cooper, K., Gregory, J. D., Walker, I., Lambe, S., Salkovskis, P. M. (2017). Cognitive behaviour therapy for health anxiety: a systematic review and meta-analysis. Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 45(2), 110-123.
- Tyrer, P., Cooper, S., Salkovskis, P., et al. (2014). Clinical and cost-effectiveness of cognitive behaviour therapy for health anxiety in medical patients: a multicentre randomised controlled trial. The Lancet, 383(9913), 219-225.
- Tyrer, P., Wang, D., Crawford, M., et al. (2021). Sustained benefit of cognitive behaviour therapy for health anxiety in medical patients over 8 years. Psychological Medicine, 51(10), 1714-1722.
- Pereira Gray, D. J., Sidaway-Lee, K., White, E., Thorne, A., Evans, P. H. (2018). Continuity of care with doctors, a matter of life and death? A systematic review of continuity of care and mortality. BMJ Open, 8(6).