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恋愛でも友情でもないパートナー

恋愛関係ではないのに、人生の相手として約束を交わす関係。友情結婚との違い、日本で使える法的な部品、名前がないことの実害。

関係の科学

恋愛でも友情でもないパートナー関係とは、恋愛関係ではないのに、恋愛のパートナーに向けられるはずの約束・優先順位・生活の絡まりを持っている関係のことです。英語圏では 2010年前後にアセクシュアル/アロマンティックのコミュニティから queerplatonic relationship(クィアプラトニック関係、QPR) という語が生まれました。ここでの queer は性的指向の話ではなく、「既存の分類に対して斜めに立っている」という古い意味で使われています。

日本語にこの語の定着した言い方はありません。 カタカナのまま当事者の間で使われている段階で、日常語にはなっていない。ですからこのページは訳語の解説ではなく、名前がまだ無い関係の形の説明です。

恋愛至上主義という補助線

日本語にはこの話に入るのにちょうどいい語が一つあります。恋愛至上主義です。

哲学者エリザベス・ブレイクは、排他的な恋愛関係こそ人生を組み立てる目標だとみなす前提を amatonormativity と名づけました。日本語でこれに一番近いのは恋愛至上主義で、しかもこちらは訳語ではなく、もともと日本語の中で使われてきた言葉です。「恋人がいないと一人前ではない」「いちばん大事な人は恋人であるはずだ」という、誰も明文化していないのに全員が知っている序列のことです。

ここを押さえると、この関係の位置が見えます。恋愛感情がないのに最も近い相手がいる、という状態は、恋愛至上主義の中では名前を持てません。 友達と呼べば軽すぎ、恋人と呼べば嘘になる。だから当事者は毎回、説明から始めることになります。英語圏で zucchini という妙な単語がわざわざ発明されたのも同じ事情で、日本語圏はその冗談をそのまま輸入しただけで、自前の語はまだ作っていません。

中に何が入っているのか

決まった形はなく、それが要点でもあります。この関係を定義しているのは中身ではなく、中身が交渉されたという事実のほうです。 よく挙がるものを並べると:

  • 互いにとっての第一の相手であること —— 最初に電話する人、緊急連絡先、予定を入れる前提になる人
  • 同居、そして家計の共有もかなりの割合で含まれる
  • 長い時間軸の約束。遺言や委任、場合によっては婚姻という制度を使って形にすることもある
  • 身体的な接触。あるかないかではなく、分類が決めるのではなく二人が決めるという点が違い
  • 共同で子どもを育てる例もある

プラトニックな関係との違いは、約束が明示されているかどうかです。友情はふつう、どちらかに恋人ができたら譲ることが暗黙の前提になっている。この関係はそうではなく、恋愛のパートナーが普通に占める位置を占めていて、しかもそれが合意の結果として占められています。

友情結婚との重なりと、違い

日本には受け皿になりうる慣行が一つ実在します。友情結婚です。恋愛感情や性的関係を前提にせず、生活を共にする相手として結婚する形で、専門に扱う結婚相談所まであります。

重なりは大きい。ただし同じものとして扱うと二つのことを取り違えます。

一つめ。友情結婚は婚姻という制度に入ることが目的の中心にあります。こちらは、制度に入るかどうかは手段の一つでしかなく、入らない組も多い。

二つめ、こちらのほうが重要です。動機に「周囲への説明」が含まれている割合が違います。 友情結婚を選ぶ理由として、親の期待や職場での既婚という肩書きが挙がることは珍しくない。それ自体は少しも不当ではありませんが、関係の形を自分たちで決めたのか、説明の要らない形を選んだのかは、後で効いてくる違いです。

なお、法律が「愛しているか」を審査することはありません。ただし判例上の婚姻意思は「社会通念上の夫婦としての関係を作る意思」と理解されていて、恋愛も性的関係も想定しない結婚がここにどう収まるのかについて、確立した答えはまだありません。

日本で、実際に何をどこまで作れるのか

法的な承認はありません。必要なものは部品を集めて自分で組み立てることになります。日本で実際に使われているのは次のあたりです。

公正証書遺言。 相続人でない相手に何かを残すには、ほぼ唯一の道です。作らなければ、何十年一緒に暮らしていても相手には何も行きません。

任意後見契約。 判断能力が落ちたときに、誰が本人の代わりに決めるかを先に決めておく契約。公正証書で作ります。医療の場面で「ご家族の方は」と言われて止まる問題に、部分的にしか効かないものの、何もないよりは確実に効きます。

成年の養子縁組。 同性のカップルが使ってきた方法で、親子という法的な親族関係が実際に作られ、相続権も生じます。効果は強いぶん、条件と副作用も具体的です。養親は養子より年長でなければならず、姓が揃い、解消するには手続きが要る。関係の形として選ぶのではなく、他に手段がないから選ばれてきた方法だということは、書いておくべきだと思います。

生命保険の受取人。 多くの会社が受取人を親族に限っており、ここで止まる例が多い。同性パートナーの指定を認める会社は増えていますが、非恋愛の同居人の扱いは会社によります。賃貸も、二人入居可の物件で説明を求められることがあります。

自治体のパートナーシップ宣誓制度は、多くが同性カップルを念頭に設計されています。使えるかどうかは自治体ごとに違うので、住んでいる場所の要件の確認から始まります。

誰がこの形を選ぶのか、そして終わるとき

語が生まれた経緯からアロマンティック/アセクシュアルの人が目立ちますが、それだけではありません。人生の相棒は欲しいが恋愛は要らない人、最も近い関係がどちらの分類にも収まらなかっただけの人、恋愛関係を別に持ちながらこの関係も持っている人。この形は、[恋愛と結婚の決まった順番](/base/relationship-escalator)のうち「恋愛と性」の前提だけを外して、約束と生活の統合はそのまま取った形だと言えます。

実務上の困りごとは、順番から降りた関係すべてに共通するものです。制度がない。説明が終わらない。そして最後に、終わり方の型がない。

離婚には手続きと語彙と、周囲が反応する作法があります。この関係が終わっても、休みを取る理由にならず、報告する相手もいない。承認が薄いことと、痛みが軽いことは関係がありません。 一緒に住み、家計を合わせ、十年先の予定を共有していた相手を失うことが、名前がないという理由で軽くなることはない。

何を約束して何を約束していないのかを、早いうちに言葉にしておく意味はここにあります。既定値が代わりに決めてくれない関係では、どこに線を引くかは交渉の結果としてしか存在しません。

出典

  • · Chasin, C. J. D. (2015). Making sense in and of the asexual community. Journal of Community & Applied Social Psychology.
  • · Brake, E. (2012). Minimizing Marriage — on amatonormativity.
  • · Scherrer, K. S. (2008). Coming to an asexual identity. Sexualities.

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