この話は褒賞の形で来るので、断ることが贈り物を拒むように感じられます。贈り物ではありません。別の仕事で、別の時間の使い方で、別の種類の疲れ方をするもので、必要な技能はいまの技能と部分的にしか重なりません。最も優れた技術者が最も優れた技術管理者だとは限らない —— 誰もが知っていて、それでも話は同じ形で回ってきます。
日本では、前提がもう反転している
英語圏の記事はここで「金と肩書きに釣られて受けてしまう人」を戒めます。日本語の読者の多くは、もう別の場所に立っています。
パーソル総合研究所の定点調査では、現在の会社で管理職になりたいと答えた人は17.2%でした。三年前は24.0%です。つまり受けたい人のほうが少数派で、断ることは奇行ではありません。にもかかわらず受ける人が絶えないのは、多くの職場で断る手続きが用意されていないからです。「やりたくありません」に対応する書式がない。
もうひとつ、受ける側の消耗の内訳を事実で見ておく価値があります。厚労省の令和5年度の実態調査では、過去三年にパワハラを受けたと答えた労働者は全体で19.3%でしたが、男性管理職では24.0%、女性管理職では23.6%と、管理職層のほうが高く出ています。管理職は、受ける側でもある。 上と下の両方から来るというのは、比喩ではなく統計に出ている形です。
これを踏まえた上で、管理職を悪い選択だと書くつもりはありません。人の仕事を人の仕事として引き受けたい人にとっては、これ以外にその仕事はありません。 ただ、消耗の見積もりを低く取ったまま受けると、辞退するより高くつきます。
だいたい何が起きているか
金と肩書きは欲しいが、仕事は欲しくない。 正直で、よくあることで、受ける前に認めておく価値があります。管理職の報酬が高いのは、成功が他人の出力になり、自分が得意だった作業をほとんどしなくなるからです。好きだったのが作業そのものなら、昇進はそれを取り上げます。
向いているのに、対立が怖い。 管理の相当部分は、誰もしたくない会話です。成績の出ない人、失望させる決定、言わなければならないこと。穏当で協調的な人はそこを避け、避けることで良い人が悪い管理職になります。問いは、できるかどうかではなく、やるかどうかです。
すでに実質やっていて、自覚がない。 人が相談に来る人、案件の行き先が先に見えている人。何年も非公式にやってきて、名乗り出なかったから辞令が来なかっただけ、という場合があります。すでに人が付いてきているなら、辞令はそれを公式にするだけです。
ここではそれしか上がる道がなく、そこが本当の問題。 専門職の上位等級を持たない組織は、優れた専門家を管理職に押し出します。それなら問いは受けるかどうかではなく、その扉しか無い場所に居続けるかどうかです。
受ける前に訊く三つ
- 「この役職の、悪い一週間はどんな週ですか」 答えがその仕事の実体です。描写できない人は、その仕事を知りません。
- 「人事権と予算のうち、どこまでが自分の裁量ですか」 責任だけが来て裁量が来ない形が、いちばん消耗します。
- 「断った場合、来年の私の等級はどうなりますか」 断る手続きが無い職場では、この質問への答えがそのまま職場の性質の情報になります。
何によって変わるか
率いることは四つの別々の能力です —— 先が見えること、人を保つこと、難しい判断を下すこと、仕事を着地させること。四つとも強い人はほとんどいません。リーダーシップの検査は、どれを持っているかを言います。遂行が高く人が低い人は、成果は出るが人が辞ける管理職になります。人が高く胆力が低い人は、慕われて、必要な会話を最後までしません。辞令の前に自分の形を知っておくことが、できる仕事のほうへ条件を交渉する唯一の方法です。