英語圏の記事はここで「具体的な額を先に言え」と書きます。日本語の読者にそのまま渡すと外れます。多くの職場では、そもそも個別に額を交渉する窓口がないからです。 賃金は等級と評価で決まり、原資は別の場所で決まっていて、直属の上司が動かせる幅は思っているより小さい。だから最初の作業は、言い方ではなく回路の特定です。
自分の値段は、どこで決まっているか
(1) 評価の点。 半期か通期の評定で、賞与と昇給に効きます。ここに効かせるには、評価期間が始まる前に期待値を合わせておくしかありません。終わってから交渉しても、点はもう付いています。
(2) 等級。 昇格は評価とは別の決裁で、要件が文書になっている職場が多い。要件を読んだことがない人が驚くほど多い。 読めば、足りないのが実績なのか、年数なのか、推薦者なのかが分かります。三つは全部対処が違います。
(3) 職務の再定義。 実際にやっている仕事が、採用されたときの職務を超えている場合です。二年経てば、たいていの人は給料を決めた職務記述より大きい仕事をしていて、誰も値付けし直していない。 最も強い根拠で、最も使われていません。中から見ると自然な積み上がりに見えて、請求すべき変化に見えないからです。
(4) 労働市場。 上の三つが全部詰まっているときに残る回路です。ここで重要なのは期待値の調整で、転職して賃金が上がった人は40.5%、下がった人が29.4%、変わらない人が28.4%(令和6年雇用動向調査)。外に出ること自体は昇給ではありません。
面談の前にやること
- 自分の等級要件を読む。 社内規程か、人事に訊けば出てきます。要件に書いていないことをいくら積んでも、その決裁は動きません。
- 数えられる証拠を六行書く。 何を出したか、何を減らしたか、自分がいなければ何が壊れたか。六行のどれにも数が入らないなら、まず可視性が課題で、それ自体が別の問題です。
- 時期を外さない。 原資が決まったあとに持ち込むと、誠実で無意味な返事が返ってきます。評価期間の始まりと、予算が固まる前が窓です。
- 否だったときの意味を先に決めておく。 残るのか、別のものを要求するのか、探し始めるのか。決めておくことが、面談の中で自分に値切らないための唯一の装置です。
何によって変わるか
この会話がいちばん苦手な人は、価値の低い人ではありません。たいてい、場をきわめてよく読む人です。 上司の居心地の悪さを実時間で感じ取り、頼まれてもいないのに先に和らげにかかる。十数分のあいだ、本物の技能が逆向きに走っている状態です。それは、自分のものだと知っていれば意図的に止められます。
職場の EQ 検査は、知覚と調整を別々に採点します。ここで効くのはその差です。知覚が高く調整が低い型が、良い数字から自分を降ろす典型です。 金銭と安心の結びつきについてはお金と安全の項も参照できます。